教師は、もっとも早く成長できる職業の一つ
NPOの中でも、なぜTFAがこのように人気となり、大企業でも活躍する人材を生み出せているのだろうか。僕は、教師以外にコンサルタントも経験している。それで思うのだが、おそらく教師という職業の特殊性と無関係ではないと思う。
普通の企業に就職すると、まずは誰もが新人として扱われる。プロジェクトに配属されても、最初はいわゆる雑用係だ。一方、学校内には先輩の先生が大勢いるが、上司・部下の関係は少なく、基本的には横の関係でみんながつながっている。一般企業に比べるとずっとフラットな組織で、教師生活30年のベテラン先生も、就職したばかりの新人教師も同じ役割を与えられる。
新人であってもクラスの担任になれば、そのクラスをまとめるリーダーである。一般企業でいえば、教師はいきなり課長としてスタートするようなものだ。その意味で、教師はもっとも早く成長のチャンスをもらえる職業といっても過言ではないと思う。
TFAを経験して身につく3つの力
教育困難校に派遣されたTFAの経験者は実務を通してさまざまな力を身につける。なかでも企業が評価しているのは、次の3つだ。
(1)「リーダーシップ」
(2)「コミュニケーション能力」
(3)「課題解決力」
まず「リーダーシップ」は、今教師にもっとも必要とされている能力の一つだ。教育現場で子どもたちと向き合い、より効果的な指導を行い、そしてクラスをまとめられるかどうかは、教師のリーダーシップにかかっている。
「コミュニケーション能力」は生徒指導や、保護者対応、同僚との関係構築において基礎となるものだ。特に困難を抱えている子どもたちは大人を信頼していない。子どもたちの立場を理解し、彼ら・彼女らに寄り添うコミュニケーションを意識することが信頼関係を構築する一歩目だ。質の高いコミュニケーションを取れることで、問題の早期解決につながるケースもあるし、さらに親や他の教員と問題の共有などもできる。
また教師という職業には、「課題解決力」も必要だ。教育現場が抱えている問題は、じつに多様だ。地域によって問題の傾向は異なるし、同じ地域や学校内でも子どもによって抱えている問題は違う。
こうしたさまざまな現状を解決できる万能のノウハウはない。100人いれば100通りの解決策がある。教師にできるのは、一人ひとりと向き合って課題を見つけ、柔軟な発想で解決策を探していくことだけ。その過程で身につくのが課題解決力だ。
「決まった答えがない」のは、ビジネスの世界も同じだ。去年売れた商品が今年も売れるとはかぎらないし、日本で成功した事業モデルが他の国で成功する保証もない。 ビジネスで成功するのは鉄板の成功法則を持っている人ではなく、その都度、状況に合わせて課題を見つけ、それを解決に導くことができる人だ。
リーダーシップ、コミュニケーション能力、課題解決力。教師が子どもと向き合うときに備えておかなければいけない力は、そのままビジネスでも役に立つ。だから優秀な学生がTFAに殺到し、企業もまたTFA卒業生を高く評価するのだ。