現在、アメリカで最も成功している教育系の非営利団体(NPO)「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」。2010年、全米で就職ランキング1位となり、グーグル、アップル、ディズニー、マイクロソフトよりも働きたい「理想の就職先」である。なぜ、優秀な人材がNPO、そして「教師」を就職先として選ぶのか。
この日本版である「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」がついに本格的に始動する。この代表創設者が20代の松田悠介氏。彼にその組織のしくみや今の若者たちのキャリアについて語ってもらった。(全3回)
社会をより良く変えていく!
自己成長を求める学生たち
全米就職ランキング(文系)で、上位の人気を誇るティーチ・フォー・アメリカ(TFA)。採用されるメンバーは、ハーバード、スタンフォード、プリンストン、イェール、コロンビア…といったトップクラスの大学で成績評価の平均点が4.0満点で3.5以上。これは最優秀レベルだ。さらにメンバーの96%が大学でリーダー的役割を果たしているというデータもある。いわばエリート中のエリートで、さらにリーダーシップを兼ね備えている人材が、教師を目指すのはいったいなぜなのか。
学生がTFAに殺到する理由の一つに、「自己成長」がある。彼らが見ているのは、10年後、15年後の自分だ。アメリカは転職社会で、数年ごとに仕事や会社を変えていく人が少なくない。ただ、単なるジョブ・ホッピングでは給料が増えていかない。そこで優秀な学生たちは自らの市場価値を高めるために、成長できる環境を求めて就職先を選んだり、一旦就職しても修士などの学位を取るために大学院で学ぶ。そういった選択肢のなかで、TFAが自己成長の場として人気を集めているのだ。
実際、企業はTFAの卒業生を非常に高く評価している。クレディ・スイスやデロイト・トウシュ・トーマツ、GEやゴールドマン・サックス、グーグルやマッキンゼーといった名だたる企業が、自社が内定を与えた学生が同時にTFAで内定を取った場合、内定者に対して2年間の入社猶予を与えている。つまり、内定はそのままで、2年間TFAでの活動を行えるのだ。
これらの企業は、どうしてTFAの活動を高く評価しているのか。もちろん、根底に企業の社会的責任を果たしたいという思いがあることは間違いない。しかし、もっと大きな目的として、TFAのプログラム参加者が2年のあいだに人材として成長することを企業が見込んでいることがあげられるだろう。企業は現実的なメリットを重視する。2年待っても人材の価値が毀損されるどころか、さらに大きくなって戻ってきてくれる。そういう確信があるから、さまざまなしくみを用意して参加を支援するのだ。
教育現場を体験することで
社会への問題意識が芽生える
こういったことから、キャリアパスのために、教育現場が利用されているのではないかと心配する教育関係者もいる。日本でこのケースを紹介すると必ず指摘される点だ。
しかし、それはデータを見る限り、杞憂ということがわかる。TFAに合格したメンバーに「2年間のプログラムが終わった後に、教育現場に残っていると思いますか?」という質問をすると、YESと答えるのは毎年6〜7%。つまり93%の人はこの経験をキャリアパスとして考えている。
ところが2年経ってみると、なんと全体の66%が教育関係のフィールドに残るのだ。教師としてそのまま残る場合もあれば、教育系のNPOを立ち上げる人もいる。TFAを経験したことで彼らの中で何かが変わったのだ。