日本初の教師育成専門の“株式会社大学院”として2006年に設立された日本教育大学院大学。この学校で学長を務めるのが、ハーバード大学大学院(ビジネススクール)でMBAを取得するなどの経歴を持つ熊平美香さんだ。
IT化、グローバル化の進展で社会が複雑化した現代。ビジネスパーソンに求められるレベルが非常に高まる今、将来を担う子どもたちにさらなる高度な力が求められるのは間違いない。では、難易度が高まる世界を生き抜く人材を育てるには、どのような教師が必要なのだろうか。現在、同校で次代の教育を担う教師の育成に奔走されている熊平さんに、これからの時代に必要な“理想の教師像”を語ってもらった。
社会が複雑化・高度化した時代
今の教育では子どもが生き残れない
石黒 アメリカではディベートやプレゼンテーションなどを通して答えが1つではないものに自分で答えを出すような教育をしている一方、日本は未だに保育園・幼稚園から大学まで記憶力偏重の教育を行っています。
日本教育大学院大学は、そんな日本の教育の現状を変えようという方針をお持ちですが、学長である熊平さんご自身は、なぜ日本の教育を変えようと思われたのですか。
Photo by Toshiaki Usami
熊平 時代は急激に変化しています。私が新入社員だった頃は、PCが1人1台なんてありませんから、今PCがやっているような仕事を新入社員が担っていました。しかし、もはや、情報の管理や伝達程度の仕事を人が行う必要はなくなり、どんどん仕事の難易度が上がっています。
イノベーションが絶えず求められ、グローバルに仕事をするうえでは日本流の“あうんの呼吸”や上下関係は通用しません。リーダーやマネジャーとして求められる役割も高度になっています。昔に比べ、いろいろなことの難易度が増すばかりです。
日本人は、環境問題などの課題解決に適した、たくさんの良い特性を持っていると思うのですが、残念ながら世界の人々の中でリーダーシップが取れず、発言をしないため影響力もありません。こんな状況を打破したいと思い、私自身、教育の世界を調べ始め、これから20年先の子どもたちにはどんな力が必要かを考えるようになりました。
調べていく中で分かったのは、OECDが私の感じていることと同様の課題をまとめていたことです。そして、PISA(OECD版生徒の学習到達度調査)報告書の序文では、これだけ複雑になった不確実な社会の中で、子どもたちが将来対処しなければならない問題やそれに対処する力は何か、そして教育関係者が理解すべきことに言及しています。