5月の総選挙の結果、与党ANCは過半数割れしたものの連立を組むことで南アフリカのラマポーザ政権は継続し、3期目に入った。慢性的な電力不足は解消せず、公的債務残高は膨張を続けており、南ア経済の先行きは楽観できない。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
与党ANCは過半数割れ
経済成長は鈍化
南アフリカでは5月に、5年に一度の議会下院(国民議会)総選挙が行われた。今回の総選挙を巡っては、1994年の民主化以降一貫して与党の座を守ってきたANC(アフリカ民族会議)の動向に注目が集まった。
2021年に実施された統一地方選挙では、同党の得票率が初めて50%を下回った。党勢低下が意識されてきたなかで明確な退潮が確認されたほか、その後の世論調査でもANCの支持率は50%を下回って推移するなど、厳しい選挙戦を迫られることが予想された。
この背景には、ここ数年の政局を巡る『政治とカネ』の問題、党内における派閥争いの激化を受けて同党支持者の間に『うんざり感』が強まっていること、長期にわたるANC政権の下で同国経済は一向に改善せず、社会経済格差が深刻化していることなどが挙げられる。
事実、昨年の経済成長率は0.7%と他の新興国と比べても力強さを欠くとともに、実質GDP(季節調整値)の規模もコロナ禍直前とほぼ変わらない推移をみせている。
さらに、今年1~3月期の実質GDP成長率も前期比年率マイナス0.23%と2四半期ぶりのマイナス成長となり、力強さを欠いている上、足元の失業率は30%を上回る水準で推移し、国民生活も厳しい状況が続いている。
なお、選挙戦の最終盤にかけては低下傾向が続いたANCの支持率に下げ止まりの兆しがみられた。一定程度の割合の有権者が投票行動を明確にしていなかったことも重なり、最終的には「政治の安定」を重視してANCの得票率が下支えされるといったいわゆる『逆バネ効果』を見込む向きもみられた。
しかし、結果的にANCの得票率は21年の統一地方選挙時点から一段と低下するとともに、獲得議席数も初めて半数を下回る惨敗を喫した。
次ページでは、ラマポーザ政権がどのように多数派を形成したかを解説するとともに、南ア経済の現況と先行きについて検証する。