利上げは適切だが、判断基準は間違い
円安進行を抑えることが必要

 日銀は、従来から、「物価と賃金の好循環が確認されれば、利上げする」としていた。追加利上げを決めた決定会合後の記者会見でも、植田和男総裁は賃上げの動きが中小企業などにも広がっていることや消費が底堅いとする判断を語った。「それ(物価と賃金の好循環)を確認ができるようになったから利上げする」ということなのだろう。

 しかし、「現在生じているのは、物価と賃金の好循環であり、望ましいことだ」という判断も、「好循環が確認できなければ利上げしない」という判断も、間違っていると私は考える。

 本来目的とすべきは、「物価と賃金の好循環」ではなく、「経済の安定的な成長」だ。その観点からいえば、できるだけ早く利上げをして日米間の金利差を縮小させ、それによって、円安の進行を抑えることが必要なのだ。その意味では今回の利上げは、あまりに遅すぎる決定だったと考えざるをえない。

生産性上昇伴わない「悪い賃上げ」
日本経済はスタグフレーションに直面

 賃金の上昇は、本来は、労働生産性の上昇によって実現されるものだ。これを「よい賃上げ」と呼ぶことにしよう。

 ところが、日本で現在、起きている賃上げは、そのようなものではない。円安で輸入物価が高騰し、それが消費者物価に転嫁される。それによって実質賃金が低下するので、物価高騰に追いつくために賃金が引き上げられている面が強い。

 生産性が上昇していないから、賃金上昇分は消費者物価に転嫁される。つまり、消費者の負担において賃上げがなされることになる。

 こうして、現実には「物価上昇と賃金上昇の悪循環」が起きている。これは、悪性のコストプッシュインフレだ。

 6月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年同月比2.6%上昇した。これで34カ月連続の上昇になる。上昇率は2カ月連続で前月より拡大した。

 一方で賃金上昇率が物価上昇率に追いつかないため、実質賃金が下落している。毎月勤労統計調査によれば、5月の「実質賃金」は、対前年同月比で1.3%の下落となり、25カ月連続の下落となった(5人以上の事業所、現金給与総額)。

 このため、消費が増えず、経済が停滞している。つまり、「物価が上昇するが、経済は停滞する」というスタグフレーションに陥っている。

 日本経済がこうした状態にあることは、政府も認めるところだ。内閣府は6月の月例経済報告で、「持ち直しに足踏みがみられる」とした。7月の月例経済報告でも、「個人消費」については「持ち直しに足踏みがみられる」という判断を据え置いた。円安などを背景にした物価高によって消費マインドが低下しているとしている。

 また、7月19日の経済財政諮問会議で、政府は、今年度の実質GDPの成長率が0.9%になり、今年1月の前回試算で示した1.3%から下がるとの試算を示した。修正の主たる理由は、GDPの5割強を占める個人消費の低迷だ。

 今年度の対前年度比は0.5%増にとどまるとし、前回の1.2%増から引き下げた。