AI半導体 エヌビディアvsトヨタ 頂上決戦#4Photo by Masato Kato

日本国内で巨大なAI(人工知能)データセンターの建設計画を相次いで打ち出すソフトバンク。米オープンAIが開発した「ChatGPT」の登場をきっかけに、生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)の開発にも自ら乗り出した。マイクロソフト、グーグル、アマゾン ウェブ サービスなど米巨大テック企業に対抗するかのように全方位のビジネスモデルを強力に推進し、孫正義氏が掲げる「ASI(人工超知能)」構想の実現に一手を打つ。特集『AI半導体 エヌビディアvsトヨタ 頂上決戦』の#4では、宮川潤一社長兼CEO(最高経営責任者)がソフトバンクの生成AI戦略の全貌を語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)

生成AI登場はスマホの比ではない衝撃
エヌビディアGPUの争奪戦に参戦の理由

――生成AI(人工知能)のインパクトをどう見ていますか。

 テクノロジーの業界にいるとOS(基本ソフト)やプラットフォームを握ることが、どれほど大きなことであるかを肌で感じます。パソコンでいえば米マイクロソフトのWindows、スマートフォンでは米アップルのiOSと米グーグルのアンドロイドというプラットフォームを作った人たちの力だけが大きくなりました。日本は、そのOSを使わせてもらう立場で、日本の子供たちに人気のゲームを開発するにしても、OSを握っている人にロイヤルティーを払わなければならない世界です。

 生成AIというのは、今まで登場したプラットフォームの比ではないくらい大きなインパクトがあると思っています。企業の(存在意義に関わる)深い部分に必要となる技術なので、その影響力はスマホのOSどころではない。だから日本にいるわれわれは、今のうちにやれるだけのことをやっておく必要があるという危機感があります。

――生成AIの開発では、マイクロソフト、アマゾン ウェブ サービス、グーグルといった米国の巨大テック企業が、米半導体大手エヌビディアの画像処理半導体(GPU)の争奪戦を繰り広げていますが、ソフトバンクも政府の補助金を使いながら2023年度に200億円、24~25年度に1500億円のGPU投資を行っています。日本で巨大なAIデータセンターを造る狙いは何でしょうか。

 データセンターの構築は私が社長に就任した21年4月の段階から進めています。そこに生成AIが出てきたので、自分たちで大規模言語モデル(LLM)を作っていくべきだと判断しました。ソフトバンクとLINEヤフーで生成AIに関わっていたメンバーを集めて新会社をつくり、開発を始めています。

 LLMの性能を表すパラメーター数は今年中に3900億を達成して、その先は1兆を目指します。さらに、生成AIの開発に必要な計算基盤を整備するため、GPUも自分たちで確保する必要があります。今はGPUの争奪戦が起きているので、買える分はできるだけ買うという姿勢で投資を行っています。

――LLM開発と共にGPU投資にも参入するということですが、米オープンAIの競合領域だけでなく、マイクロソフト、アマゾン、グーグルのAIデータセンターの競合領域にも入るということですね。

 そうです。米国企業は、それだけの巨額投資に対して市場から理解を得られていますが、ソフトバンクが「GPUに1兆円を投資します」などと言っても、日本では大批判されるでしょう。だから日本流の戦い方として、政府と役割分担して、ソフトバンクも民間企業としてできるだけの投資をやりたい。

 それでも、23年度と24年度の補助金を含めた日本のGPUの投資規模(注:ダイヤモンド編集部の調べでは合計4500億円超)では全く足りない。グーグル、オープンAI・マイクロソフト連合、メタ・プラットフォームズといった米国企業1社分の投資規模は、日本企業によるGPU投資の全てを足しても追い付きません。米テスラは1社でGPUを10万基買うという話なので、もうレベルが違い過ぎます。

「すごい能力を持ったAIプラットフォームが米国にしかなければ日本の国力がそがれる」――。そう語る宮川社長は、生成AI開発とGPUの巨額投資に乗り出した。果たして勝算はあるのか。次ページでは、ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の孫正義会長兼社長が打ち出している「ASI(人工超知能)の実現」に向け、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック〈現メタ〉、アマゾン、マイクロソフト)に対抗するソフトバンクのAI戦略の全体像を余すところなく語ってもらった。