政府がDX(デジタルトランスフォーメーション)の切り札として普及と利用を推し進めるマイナンバーカード。健康保険証との統合が今年秋に控え、さらに今後発行される次期カードの設計も進んでいる。しかし、情報システム学会は「マイナンバーカードにはそもそも構造的な問題があり、捨てるべきだ」とまで警告する。また、問題になったコンビニ端末からの住民票誤出力も根本的な解決に至っていない。特集『DX180社図鑑』(全31回)の#8では、落ち着くところを知らないマイナンバーカード問題を取り上げる。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
マイナカードと保険証統合まで半年を切った
いまだ解決されないセキュリティーリスク
「ご存じですか?カンタン!便利!マイナンバーカードの保険証利用」「まだ使ったことのない方は、新しい『マイナ受付』をいち早く体験してみてください!」
全国のクリニックや病院の受付で、そんな言葉が書かれたオレンジ色のポスターが目立つようになった。保険証のマイナンバーカードへの統合が、いよいよ今年12月に迫っているからだ。
国はDX(デジタルトランスフォーメーション)の「切り札」としてマイナンバーカードの普及と活用を急速に進めている。2兆円余りを費やしてマイナポイントをばらまき、低迷していた普及率を一気に高めた。そして、民間企業や各種団体が提供するさまざまなサービスにマイナンバーカードの利用拡大を促し、健康保険証や将来的には運転免許証などの各種証明書をマイナンバーカードに統一しようという動きも進めている。
一方で、マイナンバーとマイナンバーカードを巡るトラブルも後を絶たない。一つが、健康保険証や公的給付金の受け取り口座などの情報が数千件、他人のマイナンバーにひも付けられた問題だ。さらに、富士通Japanがシステム構築を担当したコンビニでの住民票出力サービスで、他人の住民票が誤って出力される騒動も起きた。
富士通はシステムの総点検をしたものの「富士通のソフトウエアが、本来は作り直しが必要なくらい品質の悪い安易な作りとなっていたのが原因で、現在はまだ爆弾を抱えた状態にある。根本的な解決にはなっていなそうで、誤出力はまだ起きるだろう」と、情報システムが専門の上原哲太郎・立命館大学教授はみる。そもそも富士通はコンビニ証明書交付システムを最初に導入したときのテストベンダーの一社で、当初作ったシステムを改築を重ねて実運用に転用してきた。それが今回のトラブルの背景にあるという。
一連の騒動が冷めやらぬ中、今年冬にマイナンバーカードと保険証の統合というもう一つの大きなマイルストーンがやってくる。
保険証は、保険資格喪失後も使い続けたり、他人の保険証を使い回したりなどの不正利用が後を絶たなかった。さらに、マイナンバーのそもそもの目的である、税と社会保障の適正化のためには、個人単位での医療費を把握することが欠かせなかった。個人が自分の医療の記録を把握するためにも、現状の保険証に関して何らかの対策が必要であったことは間違いない。
それを行うためにマイナンバーカードと保険証を統合することになったわけだが、多方面から懸念と反対の声が上がっている。それは、市民団体や野党だけでなく、情報システムの学術団体からも同様だ。「現在のマイナンバーカードは捨てるしかない」と強い言葉も飛び出している。
いったいマイナンバーカードに何が起こっているのか。次ページからはそのリスクと今後を詳しく見ていこう。