政府は電気・ガス代への補助を復活
「物価上昇が望ましい」日銀と矛盾

 6月の消費者物価指数の上昇率が前月から拡大したのは、エネルギー関連の押し上げがあったからだ。

 電気代が13.4%、都市ガス代が3.7%上がった。これらを含むエネルギー関連全体が、7.7%上昇した。

 こうなったのは、政府による電気・ガス代の補助が縮小したためだ。補助金は6月使用分で終了するため、このままだと、7月にはエネルギー関連の押し上げ圧力がさらに強まる。

 そうなると、実質賃金上昇率のプラス転換が遠のく。実質賃金が伸びなければ、消費マインドはさらに冷え込む。

 このため政府は、6月21日に電気代・ガス代を対象とする補助金を3カ月間限定で復活すると発表した。また、ガソリン代などへの補助も年内は続ける方針だ。これによって、物価上昇率を月平均で0.5%ポイント以上引き下げるとしている。

 これによって、見かけ上の国民の負担は大幅に減少する。しかし、その財源は国民が負担するのだから、本当に負担が減るわけではない。しかも、政府が市場に介入して物価を直接に押さえることは、決して望ましいことではない。

 物価高に対処するには、その原因である円安を是正しなければならないのだ。

 新聞報道では、財務省の神田真人前財務官は、7月12日、「投機による円安で輸入物価が上がる。それで国民の生活が脅かされるとしたら問題だ」と語ったという。私は、この判断は正しいと思う。

 それにもかかわらず、日銀は、「物価上昇が望ましい」としている。これは、明らかに矛盾した状態だ。

円安阻止、為替介入だけでは不十分
本格的な金利引き上げを

 この数年間に急激な円安が進んだのは、日銀の超低利政策が続くことを見越した投機筋による円キャリー取引があったためだ。今年の7月はじめの時点では、投機筋による円売りが、2007年6月の過去最大に次ぐ、史上2番目の規模になっていた。

 ところが、その後。この状況に変化が生じた可能性がある。投機筋の円の対ドル売り越し幅が、7月中旬に急減したのだ。

 この変化が生じた原因として、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ見通しが強まり、日米金利差が縮小するという予想があった。それだけでなく、日本政府による円買い為替介入も原因だったと考えられる。

 まず、7月11、12日に円買い介入があったとみられる。このため、11日には4円程度の急激な円高が進んだ。さらに、16日にも、円買い介入とみられる動きがあった(なお、これ以前の5月初めにも、介入があったとみられる)。

 ただ、介入だけで円レートの水準を持続的に変えることは難しい。今回の日銀の決定を受けて、為替市場が円高に動いた。しかし、この数年間で生じた大幅な円安の是正にはほど遠い。そのためには、日米金利差を大きく変えることがどうしても必要だ。

 スイスを除く主要国の政策金利に比べて、日本銀行の政策金利は異常に低い。それが異常な円安の原因になっていることは疑いない。

 国民生活を守るために、日銀が一層の金融正常化を進めることが重要だ。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)