大企業だけでなく、個人や小規模なスタートアップでもアプリ開発に乗り出すケースが増えている。ところが、費用をかけて制作したものの、誰も使わなかったという残念なケースも少なくない。
いま、アプリ開発の世界では、β版段階でユーザーの意見を聞き、改修を繰り返しながら完成させる「リーンスタートアップ」が主流だ。しかし、使用目的を把握し、即時にテストして的確な意見を返せる「良質なユーザー」を探すのは、なかなか面倒な作業である。テストを専門に行う調査会社に依頼する方法もあるが、費用は数十万円とかなり高額である。
こういった問題を「集合知」によって解決しようというサービスが「launchapp(ローンチアップ)」だ。“アプリ開発に特化したクラウドソーシングサービス”であり、開発段階のアプリをテストしてもらってフィードバックを得られる。
開発者は、アプリの目的に応じて、性別・年齢・職業を選択する。その条件に即した登録ユーザー(テスター)に対し、ローンチアップがテスト依頼を送信。テスターは手持ちの機種で検証し、意見や提案を返す。フィードバックは、24時間もしくは72時間以内の2コースから選択が可能で、フィードバック1件1000円と格安だ。
2012年9月に誕生したローンチアップでは、すでに200件の実績がある。様々な階層のユーザーにテストしてもらうことで、開発者が見過ごしがちな“落とし穴”をあぶり出す効果が大きいという。
例えば、生活環境の問題。アプリの開発は、一般に東京など都市部で行われる場合が多いが、実際の使用者は全国各地に散らばっている。アプリによっては、むしろ地方在住者をターゲットにしているものも少なくない。
「賃貸物件情報アプリをテストした企業のケースでは、地方在住のテスターから情報探索行動の差を指摘されました。地方では車が生活のベースなので、鉄道沿線よりも地区で家を探します。しかし、そのアプリは市単位でしか物件を探せない状態でしたので、細かな地区単位で探索できるよう改善要望がフィードバックされました」(ザオリア株式会社代表取締役・井上伸也氏)
ユーザビリティだけでなく、マーケティングにもローンチアップは活用が可能だ。ある旅行関連アプリでは、企画段階でメインターゲットをどの層にするか、未確定の状態だった。
「仮説を立てずに、試しでテストを行ってみたところ、思わぬ発見があったようです。ユーザーとしてどう感じたのか、何が楽しいポイントで、何に興味を引かれなかったなど、使用者の“琴線”を知ることができたそうです。そのため、フィードバックを返してくれたテスターをターゲット層にしました。ペルソナ設定の基準に使えるとの声もいただいています」(同氏)
現在は、ユーザビリティテストという切り口で展開しているローンチアップだが、今後は、こうした企画やマーケティング面にも踏み込んでいく構想だ。
「開発に入る前のアイディアを群集に問うサービスや、機種ごとのUI不具合、バグ発見など、リリース直前に行う簡易デバッグサービスを構想中です」(同氏)
ローンチアップでは、スマートフォンを所持していれば、テスターになることができる。依頼があれば、手持ちの機種にアプリをダウンロードしてテストを実施。フィードバックを返すだけなので、仕事や通勤の合間にちょっとした「副業」も可能だ。フィードバックの質に応じて報酬が上がっていく仕組みになっている。
企業活動と消費者活動の境界が少しずつなくなっていく現代社会。アプリ開発も“集団の叡智”を借りてドライブしていく時代なのかもしれない。
(吉田由紀子/5時から作家塾(R))