お盆休みは、仕事の仕方をじっくり振り返るのに最適なタイミング。普段は忙しすぎて目の前の仕事や目標以外のことはなかなか考えられないという人も、いちど立ち止まり、仕事のやり方を振り返ってみては。そのときに考えたいのが「仕事で関わる相手と信頼関係を築けているかどうか」です。上半期も残りわずかとなるこの時期に、見直してみてはいかがでしょうか。
そこで今回は、2024年6月に発売するとたちまち重版となり、「仕事の本質を学べた」「お客様とのエピソードの数々に5回は泣きました」と反響を呼んでいる『記憶に残る人になる』の著者・福島靖さんと、株式会社Omoitsukiの代表であり『大人の夢の叶え方』の著者でもある幸義一さんに、人から信頼を得るためのコツについて話していただきました。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
「役に立てるなら勧める」というスタンス
幸 義一(以下、幸) この前、X(旧Twitter)で音声だけのライブ配信ができるスペースという機能を使って、そこで「私に公開で営業をして、なにかを売ってみてください」という企画をしている人を見つけました。会ったことがある人だったので、ついノリで、チャレンジャーとして出てみたんです。
福島 靖(以下、福島) 面白いですね。結果はどうでしたか?
幸 思いがけず、褒めていただきました。
僕がなにをしたかというと、ずっと相手の話をひたすら聞いていたんです。傾聴ってやつですね。
僕もビジネスをしているので、自社で販売できるサービスはたくさんあります。でも、それらを売ることではなく、その相手の人を喜ばせることをゴールにしてみたんです。そのための手段として自社のサービスがマッチするのであれば、提案しようと考えました。
なので制限時間30分のうち25分くらいは、ひたすら相手の話を聞いていました。その結果、相手が求めていることと僕が提供できることが、まったくマッチしないなと感じました。
福島 それで、どうしたんですか?
幸 正直にお伝えしました。
「あなたの課題はこうで、それを解決するには、こんな方法が必要だと思います」
自社のサービスを案内するのではなく、単純に、相手になにが必要かを伝えました。そのうえで、こう付け加えました。
「その課題に対して、この点であれば僕の会社のサービスでできることがありそうです。何ができるかはわからないですが、お役に立ちたい気持ちはあります」
こう伝えたら、相手がひと言、言ったんです。
福島 なんでしょう?
幸 「合格」って(笑)
「売り物じゃなくて、君を買うよ」とまで言われました。
相手から聞いてもらうまで、話さない
幸 嬉しいと同時に、製薬会社で営業をしていたときのことを思い出しました。
あの頃は毎日病院に伺って、邪魔しないように端っこで小さくなって、先生たちの一瞬の隙をついてお話しをさせてもらってました。売り込もうなんてしたら出入り禁止になるんです。
ですからそのときも、「何かあなたの役に立ちたいんです」ということだけを伝えていました。
すると先生たちも心を開いてくれて、たとえば「もっと最先端の医療を提供できるような組織をつくっていきたい」とか、「地域の薬局や開業医の先生たちも巻き込んで一定水準の医療を提供できるようにしていきたい」など、本音を話してくれました。
営業という仕事は置いておいて、「そのビジョン、良いですね!」と、こちらも本音で話していました。
するとある日、先生が聞いてくれるんです。
「そういえば君、何を売ってるんだっけ?」と。
そうやって相手に聞かれてから説明するのが、いちばん成約率が高かったですね。
商品やサービスを説明する前に、
まずは「自分」に興味を持ってもらう
福島 その話、とても共感します。
営業にはよく「農耕型」と「狩猟型」と言われるスタイルがあります。狩猟型は「この商品を買ってください」と、いわゆる押しの営業です。一方で今の幸さんのように、相手の方から「その商品を買わせてください」と言ってくれるような環境をつくるのが、いわゆる農耕型です。
幸 今の時代、狩猟型はなかなか難しくなりましたよね。
福島 僕自身、日々いろんな営業を受けるなかでも、そう感じます。
たとえば、アイスブレイクも早々に、すぐにパソコンを開いて「うちはこんなビジネスをやってまして~」と説明してくる営業もいます。
相手に悪気はないと思うのですが、ただ、その話がまったく聞こえてこないんです。なぜかというと、商品やサービスの前に、その人に興味がないからです。
幸 たしかに、興味を持てない人に何を言われても耳に入ってこないですよね。
福島 はい。大事なのは「ステップをつくる」ことなんです。
昔、「GNP営業」という言葉が流行りました。生命保険の女性営業、いわゆる「生保レディ」が駆使していた手法で、「義理・人情・プレゼント」を指します。
彼女たちは企業のオフィスフロアまで入っていくのですが、無理に売り込んだりせず、いつもエレベーター前で待っていて「おはようございます」と挨拶したりするんですよ。営業なのに。
でもそうやって顔見知りになっておくことで、その会社の人が保険のことを考え出したときに、「いつも会社に来てくれてるあの営業さんに相談するか」と、頼ってもらえるんです。
『記憶に残る人になる』でも書きましたが、僕も営業をするときは商品やサービスを売り込むのではなく、自分に興味を持ってもらうことを最重要目標としています。
興味を持ってもらう。これが最初の一歩となって、こちらの話も聞いてもらえるようになるんです。
このステップをいかにしてつくるかが、もっとも大事だと考えています。
(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』の著者・福島靖さんが行なった対談の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。
外資系の製薬会社、医療機器会社を経て2021年3月に起業。全くの未経験からTwitter(現X)をはじめ、約2年でフォロワーが5万人に。集客、販売、採用、PRの全てをTwitterで賄ってきた経験から事業展開。「あなたにお願いしたい」と言われる人(アカウント)になるためのコンサルティング。(株)Omoitsukiを創業し現在4期目。SNSを使って求職者を集めるSNS採用支援をメインサービスとして提供。2023年「大人の夢の叶え方」を商業出版し、著者として講演活動なども行う。