「話にならない」「ウチのデスク連中ですら…」日経新聞の編集幹部が嘆いたワケPhoto:JIJI

安倍政権、菅政権と続いた「アベノミクス」だが、その評価は未だ賛否両論だ。名だたる政治家を取材し続けてきた文藝春秋元編集長が、ゼロ金利政策の長期化、財政赤字、そして今後の経済政策について解説。日本経済が直面する現実とその対応策を考える。本稿は、鈴木洋嗣『文藝春秋と政権構想』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

今こそ総括するべき
「アベノミクス」

 安倍政権、菅政権と続いたアベノミクスの評価は、岸田政権になっても定まっていない。しかし、日本経済はすでに物価上昇率3%を超えるインフレ状況が出来している。今こそ、アベノミクスをきちんと総括しておくべきではないだろうか。

 2001年にゼロ金利政策を一時的に解除したときにインタビューした日銀総裁、速水優の言葉が忘れられない。

「中央銀行は『銀行券の発行』『通貨・金融の調節』『資金決済の円滑化』『信用秩序の維持』の4つの役割を担っているわけですが、要するにすべて国民生活のためなんですね」(「文藝春秋」2001年1月号)

 日銀の役割について端的に指摘した上で、世界で初めて採用した「ゼロ金利政策」について言及していく。

「ゼロ金利政策については、副作用も指摘されました。民間主導で中長期的に構造改革をしていかなければ、日本経済は海外に対抗していけないわけですから、構造改革をやっていくためにも、金融サイドからも必要な環境づくりをしていかなければならないと考えます。優良なところには貸していくけれど、悪いところには貸せないというのは、ごく当たり前な原則で、そういう是々非々を金融機関がとれるような態勢にしていくことが、中長期的にはいいんだろうと思います」

 そしてこう断言していた。

「私は『ゼロ金利』は前例のない極端な政策だったと思うのです」

 そして「ゼロ金利解除」が健全な姿であると思いますか、との問いにこう答えた。

「リスクをカバーするために金利があるわけですからね」

 生え抜きの日銀マンで、日商岩井の経営を担ったこともある総裁の言葉だけにその意味は重い。インタビュー後の雑談では、「ゼロ金利」は本来やってはいけない政策である旨を語っていた。

アベノミクス最大の問題点は
ゼロ金利を長く続けすぎたこと

 アベノミクスはさまざまな視点から検証しなければならないとは承知している。そのなかで素人なりに考えてきた最大の問題点は、「ゼロ金利を長く続けすぎた」ことではないだろうか。

 日経新聞の編集幹部が「いまのウチのデスク連中ですら、金利のある世界を知らないですから。日銀が金利を上げると言ってもピンと来ないんだから、話にならない」と嘆いていた。いまは40代後半で幹部になっている記者が、入社したころから金利はなかったのだ。