岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が波紋を呼んでいる。筆者もこの施策は少子化の抜本的な解決にはつながらず、「対症療法」にすぎないと考えている。そう言い切れる理由と、少子化脱却に向けて日本政府が本当に解決すべき問題について解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「異次元の少子化対策」は
アベノミクスに似ている
今年1月、通常国会が開幕した。その中で岸田文雄首相が最重要課題の一つとして位置付けているのが「異次元の少子化対策」だ。
日本の合計特殊出生率は下落を続け、2021年は1.30人である。22年の日本の出生数は80万人を割り込んだとみられる。国家として危機的な状況といえる。岸田首相は、こうした状況を「異次元」の施策で一挙に解決するという。
「異次元」と聞いて想起されるのは、安倍晋三元首相が展開した「アベノミクス」の「異次元の金融緩和」だ。
だが、私はアベノミクスを評価していない。金額が異次元だっただけで、中身は旧来型のバラマキ政策だったからだ。この政策は、輸出産業など斜陽産業を延命させる「対症療法」だった。
経済を本格的に復活させる新しい産業を生み出す本質的な改革、いわば「原因療法」と呼べる規制緩和や構造改革は十分に行われなかった(本連載第305回・p2)。
「異次元の少子化対策」もアベノミクスに似ている。まず形式的な話をすると、主要な施策が「三本柱(三本の矢)」にまとめられる点が同じだ。
次に中身を見ていくと、(1)児童手当を中心とする経済的支援強化、(2)幼児教育や保育サービスの支援拡充、(3)働き方改革の推進――の三本柱は既存政策の拡充にすぎない。これもアベノミクスと同じだ。
さらに、「異次元」の予算規模で実行される点も同じだ。特に(1)(2)は本質的な課題を解消する「原因療法」ではなく、目の前に見えている問題を解決するためにバラマキを行う「対症療法」である点も似通っている。
こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親にとっては助かる話だろう。だが、子どもがいない夫婦も含めて、国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない印象だ。