2年前の独露パイプライン爆破で、ドイツがウクライナ人に「今」逮捕状を出した深い理由【佐藤優】2024年8月21日、モルドバへの公式訪問中に、大統領官邸でマイア・サンドゥ大統領との共同記者会見に出席したドイツのオラフ・ショルツ首相 Photo:EPA=JIJI

バルト海を経由してロシアからドイツへ至る天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」が何者かに爆破されたのは、おととしの9月26日。この事件に関して動きがあり、ドイツのメディアでは「ウクライナ国籍の男に逮捕状が発行された」と報じています。その理由とは?作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

全責任をウクライナに?ノルドストリーム破壊工作

 バルト海を経由してロシアからドイツへ至る天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」が何者かに爆破されたのは、おととしの9月26日。ロシアがウクライナへ侵攻を開始してから、およそ7カ月後のことでした。

 この事件に関して、動きがありました。8月15日付の「朝日新聞」は、前日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルを引用する形で、〈ウクライナ軍のザルジニー総司令官(当時、現駐英大使)が、ゼレンスキー大統領の中止命令にもかかわらず、破壊工作を強行した〉と報じています。

 米紙ニューヨーク・タイムズは昨年3月に、「米国政府が、親ウクライナ勢力による破壊工作だったことを示す情報を持っている」と報じていました。米紙ワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルも、「米国政府は事件が起きる3カ月前に、ウクライナ軍が6人の特殊部隊を派遣してパイプラインを爆破する計画だという情報を入手し、ドイツなどに共有していた」と伝えています。

 筆者は8月13~18日、ロシア・モスクワに出張していました。今回のウォール・ストリート・ジャーナルの報道は、モスクワでも流れましたが、筆者がよく知るクレムリンの関係者は、懐疑的でした。

「ウクライナに、単独でこの工作を行う能力はない。水深80メートル以下の海中で破壊活動を行う能力を持っているのは、米国、英国、ロシア、スウェーデン、ノルウェー、それに中国くらいであろう。以前イタリアはその能力を持っていたが、今では失われてしまった。ロシアと中国には動機がない。

 本件工作の企画立案は英国で、スカンディナビア諸国もかんでいるというのが、ロシアの見立てだ。ノルドストリーム破壊工作について全ての責任をウクライナにかぶせ、自らの手が汚れていないように見せかける、典型的な英国の工作だ」と言うのです。