「人脈という言葉を使う人が絶対につかむことのできない成功の話があります」
そう語るのは、起業家・UUUM創業者である、鎌田和樹氏だ。2003年に19歳で光通信に入社。総務を経て、当時の最年少役員になる。その後、HIKAKIN氏との大きな出会いにより、29歳でUUUMを設立。「ユーチューバー」を国民的な職業に押し上げ、「個人がメディアになる」という社会を実現させる。2023年にUUUMを卒業後、初となる著書『名前のない仕事 ── UUUMで得た全知見』では、その壮絶な人生を語り、悩めるビジネスパーソンやリーダー層、学生に向けて、歯に衣着せぬアドバイスを説いている。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、これからの時代の「働く意味」について問いかける。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)
人生を変える再会
僕は、2013年にHIKAKINと再会します。
前職の上司が店を開き、そこのオープニングパーティーに彼が来ていました。
再びビートボックスを観て、「何かを見つけた!」という思いがしたのです。
その後すぐに、「今度、お茶しましょう」ということを伝えて、ゆっくり話す機会をもらいました。そこでは、いろいろなことを聞きました。
「ユーチューバーって何なのか?」
「どうやって生計を立てているのか?」
「なぜユーチューブをはじめたのか?」……
と一通り話を聞いて、正直、当時の僕は、「怪しい」と思ってしまいました。
しかし、そのあと、HIKAKINはシンガポールへと旅立っていき、なんとエアロスミスと共演してきたのです。
それを聞いたとき、あらためてユーチューバーという存在を理解しないといけないと思い知ったのです。
その勢いのまま、僕は、友達の梅田さんとの打ち合わせのときに、
「ユーチューバーって言われる人たちがいるの知ってる? 彼らに関するビジネスってよくない?」
と語りました。忘れもしない、六本木ヒルズの下にあるスタバでした。
すると梅田さんは、
「めちゃくちゃいいね! なんかわかんないけど、いいよ!」
そう言ってくれました。
しかも、「何か手伝えることないかな。出資するよ」とまで言ってくれた。
すごく嬉しかったですね。
原宿の6畳一間から始まった
そこからは、当時の仲間と一緒にユーチューブを見る毎日になりました。
最初のオフィスは、原宿の竹下通りのマクドナルドが入っているビルの401号室。6畳一間でした。
マクドナルドの隣にはピアスなどを売っている小物屋さんがあって、客の女子高生たちにまみれながらエレベーターに向かうようなところです。
本当に狭い部屋で、来客があったら従業員に向かって「みんな、下のマックでメシ食ってきて!」と言って、追い出していました。
原宿の6畳一間。すべては、ここから始まりました。
9時くらいに出勤して、アポがないときは19時には仕事を終えます。
竹下通りにファミリーマートがあり、夜は社員に千円札を渡して、安いお酒とおつまみを買ってきてもらい、ささやかな晩酌をしていました。
食事は、マックか100円ショップでパスタとソースを買ってきてそれを食べていました。ミートソースやバジルなど、日替わりで食べていましたね。
飯代に500円以上は出せなかったのです。
事務所の小さな机の端っこに30インチほどのモニターを置いて、ユーチューブにつないでいました。
退社するときは、「ユーチューブテーマソング」を聴いてから帰っていました。
「ここに出てる人らと、いつか絶対、仕事したいよな」
そんなことを言っていました。
3時間以上、YouTubeを見てから会う
とりあえず僕は、ユーチューブで活躍しているクリエイターの中から「チャンネル登録者数の多い順」に声をかけていきました。
これは、HIKAKINからのアドバイスです。
結果的に、この判断が正解でした。
もし、弱気になって登録者数の少ない人から当たっていたら、結果は違ったものになっていたでしょう。
すべて自分でアポを取り、直接会いにいきました。
いま所属してくれているクリエイターの中には、当時、僕が送ったメールに返信をくれなかった人もいます。
きっと怪しかったのでしょうね。いきなり「一度お話しさせていただきたいです」みたいなメールを送るわけですから無理もありません。
そうして僕の「ユーチューバーに会いに行く旅」が始まるのです。
僕にはクリエイターに会うときの絶対的な「作法」がありました。
それは、「3時間以上、彼らのユーチューブを見てから会う」ということです。
そうしないと失礼だと思ったからです。
だからじつは、会う前にもう好きになっています。
3時間以上見ているから、勝手に親近感がわいているんです。
もちろん仕事だから「うちに所属してください」と言わなきゃいけないのですが、いざ会ってみると、
「どうやってこの動画って作ってるんですか?」
「どういう経歴なんですか?」
「そもそも、いま何をやっているんですか?」
と、自然と興味がどんどんわいてきます。その状態になってから会うことが大事でした。
人脈という言葉
ここであなたに質問です。
人に会う前の「作法」はありますか?
というのも、仕事はすべて「人」だと思うからです。
家でアイデアを練っているだけでもダメで、外に出て人と会わないと、ビジネスは生まれません。
だったら、そのチャンスを最大限に生かすしかない。
といっても、やることはシンプルです。「準備する」だけです。
会う前から好きになるくらいの準備です。
「人脈」という言葉が口グセの人は、ただむやみに会えばいいと思い込んでいます。
それとはぜんぜん違います。
パーティーでたくさんの名刺を集めても、何の意味もないのです。
(本稿は、『名前のない仕事 ── UUUMで得た全知見』より一部を抜粋・編集したものです)
起業家、UUUM創業者
2003年、19歳で光通信に入社。総務を経て、店舗開発・運営など多岐にわたる分野で実績をあげ、当時の最年少役員になる。その後、孫泰蔵氏の薫陶を受け、起業を決意。ほどなくして、HIKAKINとの大きな出会いにより、2013年、29歳でUUUMを設立。「ユーチューバー」を国民的な職業に押し上げ、「個人がメディアになる」という社会を実現させる。2023年にUUUMを卒業。『名前のない仕事 ── UUUMで得た全知見』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。