「可能性が高い」か「可能性が大きい」か、「影響が大きい」か「影響が強い」かなど、形容詞に悩む場面ってありませんか。
国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、「可能性」に続く形容詞として最も自然なものを紹介します。(構成・撮影/ダイヤモンド社・今野良介 初出:2023年10月11日)
「コーパス」を指針にする
「可能性が」のあとに続く形容詞として、「大きい」「高い」「強い」「多い」のどれがもっとも相性がよいか、わかるでしょうか。
今後、日本経済はインフレが一層加速する可能性が多い。
「多い」だと何となくおかしいことはわかるのですが、「大きい」「高い」「強い」のうち、どれを選んでよいか、迷うところです。
こうした判断に指針を与えてくれるものがあります。
現在、言語学で盛んに分析に用いられているコーパスというものです。
コーパスは、書籍、新聞、雑誌などの書き言葉、会話や講演などを文字化した話し言葉を大量に集め、コンピュータで検索・分析ができるようにした言葉のデータベースのことで、国立国語研究所では、こうしたコーパスを構築し、無料で公開しています。
「コーパス」「中納言」という語で検索すると「コーパス検索アプリケーション『中納言』」のページに行き、そこで無料登録ができますので、興味のある方はぜひお試しください。
本記事は書き言葉なので、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)という、現代日本語の書き言葉の全体像を把握するために構築されたコーパスを用います。
これで、「可能性が」のあとに、「大きい」「高い」「強い」「多い」のどれが多く続くのか、検索してみましょう。
「可能性が大きい」が129、「可能性が高い」が1026、「可能性が強い」が94、「可能性が多い」が13となっており、「可能性が高い」がもっとも自然な表現であることがわかりました。
今後、日本経済はインフレが一層加速する可能性が高い。
拙著『ていねいな文章大全』では、このほか、「傾向」「割合」「期待」「効果」「影響」と形容詞との相性など、適切な語彙選択の指針を多数紹介しています。