職場には「すぐあきらめる人」と「絶対あきらめない人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。
U社長の会社は、とある施策に打って出ることにした。
これを実行すれば、1000万円の利益アップが見込めそうだ。
しかし、このとき法務部から連絡が入る。
「顧問弁護士に確認したところ、この施策には競合からの訴訟リスクがあるそうです。なのでストップすべきです!」
法務部からの助言を聞き入れるべきか、退けるべきか。
あなたがU社長だったら、どんな意思決定をするだろうか?
「確率論的に考える」とは、どういうことか?
さて、「悩まない人」は、こんなとき、どんな思考アルゴリズムを働かせるのか?
U社長、法務部、顧問弁護士のやり取りを見てみよう。
法務部「社長、やはり今回はやめておきましょう!」
U社長「ちょっと待ってください。そもそも、この施策で競合から訴訟されて負けたときに支払う損害賠償額は、最大いくらになりそうですか?」
弁護士「最大で1億円くらいになるかもしれません」
法務部「1億円! 社長、これはもし負けたら1000万円どころじゃないですよ。ストップしましょう」
U社長「では、実際に訴訟になったとして、当社が負ける確率は何%くらいだと思いますか?」
弁護士「裁判はやってみないとわからない部分はありますが、10%くらいは負ける可能性があります」
U社長「なるほど……では、実際に競合が訴訟を起こす確率は何%くらいだと思いますか?」
弁護士「相手が勝てる確率が10%くらいなので、実際に訴訟を起こす確率はざっと見積もって20%でしょうか」
U社長「ありがとうございます。わかりました。今回の施策はやはり実行しましょう!」
法務部「えっ……! どういうことですか?」
いかがだろう?
U社長がどんな思考プロセスを経て「実行」の意思決定に至ったか、わかっただろうか?
U社長は金額の多寡で判断しているのではなく、確率論的に判断しているのだ。
最大賠償額1億円、負ける確率10%、訴訟される確率20%──この3つを掛け合わせると、この施策による確率論的な見込損失額は200万円となる(1億円×0.1×0.2)。
つまり、この施策は200万円の法的リスクコストを含んでいるとみなせる。
一方、この施策によって得られる利益は1000万円だった。
したがって、この施策の実行価値はプラス800万円である。
だとすると、この施策を実行しない理由はない──これがU社長の思考プロセスである。
「勇敢さ」に頼るリスクテイクは、ただのバカである
じつのところ、「北の達人」で似たような訴訟リスクを抱えたとき、私はまさにU社長のように考えた(もちろん、法的な問題がある判断はしない)。
多くの人は顧問弁護士から「訴訟リスクがある」と聞くと、それだけで思考回路がストップし、「危険だ! やめておこう」となる。しかしこれは、熟慮を経た判断ではなく、直感的な反応にすぎない。その結果、余計なことに思い悩み、適切な行動が取れなくなってしまう。
慣れていない人には「訴訟」「裁判」というものは怖いものに感じられるかもしれない。
たしかに、刑事裁判になるものは1%でも負ける確率がある場合はやってはいけない。
だが、民事裁判とは単なる「交渉手段」の1つである。
訴訟そのものを恐れる必要性はまったくない。
恐れるべきは「訴訟」ではなく「敗訴」である。
しかし、真っ当にやっていれば仮に訴訟されても敗訴する可能性は著しく低い。
私は常にリスクを確率論的に捉え、物事を判断している。
だから、実際に社内で訴訟リスクが話題になったときのために、それぞれの確率や変数を記入できるエクセルフォーマットを準備している。
これをベースに議論すれば、法務部や顧問弁護士・弁理士ともあくまでも数字に基づいたやり取りができる。
リスクを取るために必要なのは、勇気とかおもいきりのよさではない。
どこまでも「計算」である。
計算しないから、リスクが怖くて動けなくなる。だから悩む。
また、無理やり自分を奮い立たせ、リスクに対する恐怖心を打ち消す人は、勇敢なのではない。
単に無謀なだけ、思慮が足りないだけである。
本当の意味でリスクに怯えない人は、リスクを確率論的な計算問題として捉えている。
先ほどのケースでも、もし敗訴リスク30%、訴訟リスク40%の場合は、施策の法的リスクコストは1200万円となる(1億円×0.3×0.4)。
こうなると、期待される利益(1000万円)を上回るコストになるので、U社長は施策の実行に踏み切らないだろう。
「いけいけどんどん」で強気に物事を進めるだけの人とは、ここが決定的に違う。
このように、あくまで数字ベースで考えていけば、リスクを取るか取らないかの判断に迷うことはなくなる。
「訴えられたらどうしよう……」「負けたらどうしよう……」と感情ベースで思い悩む余地もない。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)