
「人は戦争を裁けるのか」という根源的な問いに、戦後80年経った今も人類は答えを出せずにいます。日本の戦争指導者が裁かれた「東京裁判」で、ただ一人「被告全員は無罪である」と主張したインドのパル判事。その衝撃的な“ちゃぶ台返し”は、法の正義そのものを問う鋭い問題提起だったのです。そして、この80年前の問いは、プーチン大統領やネタニヤフ首相に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)が抱える課題にも直結しています。パル判事の“警告”は、今なお現代に突き刺さります。(ノンフィクション作家/元NHKチーフ・プロデューサー 高木徹)
「人は戦争を裁けるのか」
東京裁判が現代に突きつける問い
終戦80年を迎えるこの8月、様々なメディアで「あの戦争」を振り返るコンテンツがあふれている。
その中からこの1本を見るべし、と手前味噌ながら自信を持って言えるのが、NHKスペシャル「ドラマ東京裁判」という異色のコンテンツである。
異色な点は3つある。まず、今をときめくNetflixとNHKが共同で多額の制作費を出資し、両方のメディアで視聴できるコンテンツであること。次に戦後常に激しい論争の的であった東京裁判という歴史的一大イベントに真正面から取り組み、日本と欧米のスタッフが激論を交わしながら制作したこと。最後に、「人は戦争を裁けるのか」という現在まで続く人類普遍のテーマをエンタテイメント性豊かに描き出した作品であることだ。
各回およそ1時間の4本シリーズの作品が初回放送されたのは2016年のことだが、NetflixとNHKオンデマンドで、今もいつでも見ることができる。
東京裁判とは、戦後まもない1946年5月からおよそ2年半にわたり、戦時中の政治家や軍人など日本を戦争に導いた指導者たちを戦勝国の法律家たちが裁き、東条英機元首相をはじめ、被告25人(判決時)の全員が有罪、そのうち7人が死刑になったという歴史的な国際裁判のことだ。