「あなたの職場では、目的が不明確な依頼が横行していませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「仕事の目的を共有しない職場」の問題点について指摘します。
目的意識が悪気なくズレている組織
マネージャーがメンバーに仕事を依頼する際、あるいは経営陣や管理職が社内に通達や伝達を行うとき、目的や背景が共有されない、または悪気なく省略される。あなたの職場ではそのような景色が常態化していないだろうか。
また、依頼される側も、相手に目的を問うことを躊躇していないだろうか。
目的を共有しない、確認しない。
その慣習は以下の3つの観点から、組織文化そのものをじわりじわり曇らせる。
①すれ違い、手戻り、相互不信が常態化する
目的を伝えられないまま(確認しないまま)に仕事を進め、成果物が出てきてから「イメージと違う」とやり直しをさせられる。
目的がわからないまま方針や指示内容だけが示され、皆考え込んでしまいものごとが進まない。
あるいは、憶測で進めて後で批判される。
この景色、控えめに言って不健全である。
考えてみてほしい。そもそも相手は他人である以上、目的に対する認識は悪気なくズレる。それにもかかわらず目的の伝達や確認を省略するのは、仕事の進め方が楽観的すぎるというか雑すぎる。
すれ違い、手戻りの繰り返しはやがて相互不信を生む。「どうせダメ出しされるのだから」と受け手の主体性もなくなり、共創どころではない。職場の雰囲気もギスギスする。
②発注者マインド/下請けマインドが染みつく
「いいからやれ」
「察しろ」
このような目的の伝達を省略する習慣、目的に立ち返らない習慣は、仕事の依頼者と受け手の双方にとってやがて不幸をもたらす。
まず依頼者側(マネージャーや発注者)には、発注者マインド、ひいては殿様マインドが染みつく。
丁寧な伝達はもちろん、対話やフラットなコミュニケーションを通じた仕事の仕方がいつまでたっても身につかない。適当に指示を出しても、受け手(メンバーやお取引先)が必死に察して対応してくれるからだ。
また「目的や背景を伝えない=相手を作業者扱いする」行為でもある。知らず知らずのうちに相手を下請け扱い、業者扱いして、他者(他社)と協力関係を構築できなくなる。殿様マインドでの仕事しかできない人は組織にとっても扱いが難しく、定年後に転職先が見つからなくて路頭に迷うケースもある。
受け手側(メンバー)には下請けマインドが染みつく。
人は目的や背景を伝えられず指示だけされると、作業者扱い、下請け扱いされた気持ちになる。その積み重ねが、細かに指示をされないと動けないマインドを醸成し、目的を想定したり疑ったりして行動を改める思考習慣を奪う。それどころか主体的な意見提案や自分の考えを持つ習慣すらなくなる。
③思考停止癖がつく
こうして、マネージャーとメンバーともに思考をする習慣が奪われる。
マネージャーはとにかく指示するだけ、メンバーは言われたことをやるだけ。心ある人が「非効率だ」「不条理だ」と思って異を唱えても、誰も目的に立ち返ることをせず、「ルールだから」「今までそうしてきたから」「皆がやっているから」で同じことを続けよう/続けさせようとする。ルールや慣習を決めてきた上位者にもの申そうともしない。思考停止集団、行動停止集団のできあがりだ。
これではいつまでたっても、チャレンジもイノベーションも、いや創意工夫や改善さえも生まれない。仕事に対する自律性も主体性も育まれない。育まれるわけがない。
百歩譲ってお互いがお互いをよくわかっていて、いわゆる「阿吽の呼吸」で意思疎通が成り立つ環境であれば、あるいはマネージャーや依頼者の指示内容が非の打ちどころのないエクセレントなものであれば、目的などいちいち確認しなくてもよいだろう。言われたことをただやっていれば100点を取ることができる。しかしマネージャーとて万能ではない。それに人材の多様化が進む今の時代、「阿吽の呼吸」や「察しろ」の文化で回る職場がどれだけあるだろうか。