好きなだけ買い物をして貯金はゼロ。クレジットカードはリボ払い。ギャンブル好きでカードローンの借金もある。もし、大人になった自分の子どもがこんな状態になったら、どうだろうか。「社会人になれば自己責任。痛い思いをして、学べばいい」という考え方もあるが、金銭感覚は人それぞれ。「痛い」と思わず、借金を繰り返すケースも少なくない。今年から新社会人となった我が家の息子も、どちらかといえばそっちのタイプで、お金の使い方がややあぶなっかしい。だが、親の注意は聞こうとしないから厄介だ。
ファイナンシャルプランナーの中村芳子氏が書いた『【新NISA・iDeCo対応版】20代のいま、やっておくべきお金のこと』が、そんなちょっとお金オンチな若者からも「わかりやすい」と評判だという。若者にお金をコントロールする大切さを、どう伝えているのだろうか。(文/上田ミカコ、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

【新NISA・iDeCo対応版】20代のいま、やっておくべきお金のことPhoto: Adobe Stock

貯蓄がないと不安な人。貯蓄がなくても平気な人。

 お金に対する感覚は、人によって違う。

 長年マネーライターとして、貯まる人も貯まらない人も取材してきたが、お金は使い方も貯め方も本当に十人十色だ。

 どんなに収入が少なくても貯金しないと気が済まないタイプもいれば、あるだけ使い切って貯金がゼロでも平気な人もけっこういる。

 自分は前者で、手取りが13万円だった20代の頃も、5万円の家賃を払いながら、毎月2万円は貯金していた。カードはもちろん一括払いのみ。

 そうしないと心配だったからだ。しかし、息子は違う。

 リボ払いやカードローンこそないようだが、分割払いは平気で使うし、動画や音楽のサブスクも躊躇なく増やす。

 毎月、カードの引き落としにヒヤヒヤしているくせに、貯金がなくてもケロッとしている。信じられない。

親子でお金の話をするのはけっこう難しい

 若いうちは、「今」にお金を使うことも大切だと思う。

 若いときにしかできないことはあるし、親から見ればバカなお金の使い方に見えても、そこからいいご縁が広がっていったりする話はよく聞く。

 だが、お金の管理がずさん過ぎてもやっぱりよくない。息子も、このままでは近々始める一人暮らしで、たちまち困窮するのは目に見えている。

 困るのは別にいい。それこそ、そこから学べばいいのだから。

 気になるのは「足りなければ借りればいい」という考え方である。もし、その感覚があるとしたらこわい。

 それこそ、困ったらリボ払いやキャッシングにすぐ頼ってしまうだろうし、ネットにはびこる怪しい投資話に簡単に飛びつくかもしれない。

 ようやく教育費の心配が終わったというのに、違うお金の心配を持ち込まれてはたまったものではない。

 なにも大金持ちになってほしいと言っているわけではない。借金で人生を台無しにしたり、お金で人に迷惑をかけたりしないでほしいだけだ。

 その上でやりたいことを叶え、幸せに生きてくれたら親として言うことは何もない。

 そのために

・入ってきたお金で暮らす
・カードは一括払いだけ
・貯金は毎月する(本人の名誉のために言っておくと、引っ越し資金は先取りで貯めており、家に食費は入れている)
・飲み会や洋服は予算を決めて使う

 など、親として基本的なお金のルールを伝えたいだけなのだが、残念ながら貯金がなくても平気な人間に、「貯金がないと困るよ」と言っても響かない。

 それどころか、親子ではケンカになるのがオチで、耳の痛いお金の話など、「今じゃなくていいでしょ」とドアをバタンと閉められておしまいである。

若者が耳を傾けるお金の話の切り出し方とは

 本書は、本来であれば息子のような若者が自分で読むべきものだ。だが、勉強と一緒で、いくら親が読めと言っても、本人にやる気がなければ手にとらない。

 親ができるとすれば、なんとか興味を持てるように水を向けることぐらいだろう。中村さんのアドバイスにはそのヒントがたくさんあった。話の切り出し方や取るべき姿勢が、大いに参考になるのだ。

 それもそのはず。「おわりに」を読むと、著者はあるひとりの若者のために書いたとある。その若者は、かなりお金にあぶなっかしく、かつ、その自覚がなかった。

 そのことを心配した著者が、彼がお金で失敗せず、自分の店を持つという夢をちゃんと叶えていけるようにと願って書いたものなのだ。だから、文全体が若者に直接語りかけるように優しく、親身極まりない。

 こんな伝え方なら、拒絶せず耳を傾けるだろうなと思う具体例の宝庫なのだ。

 たとえば、最初の扉にはこうある。

 若い時からお金のことを考えておかないと、人生やりたいことがやれなくなる(本書扉)

 親が子どもにお金の話をする際、たとえば「貯金したほうがいい」など、どうしても上から目線になりがちだ。だが、それでは反発される。

 そうではなく、この言葉のように、本人たちにとってのメリット・デメリットから入るほうがよさそうだ。

 この言葉を見て、教えようという気持ちばかりで、子ども側の視点に立っていなかったことに気づかされた。そもそも、親として伝えたいのも、まさにこういうことなのだ。

イメージしやすい具体例が、やる気を引き出す

 さらに、出だしにはこうある。

10年後の自分を想像してみよう。想像力は「お金上手」になるための大切な道具だ。

・貯金ゼロで、好きでもない仕事に追われて疲れている30代。お得情報を追いかけ続けるけど、増えるのは借金。疲れていて、ふけて見える。
・好きな仕事をして自分の時間を楽しみ、将来のための貯金も時間の余裕もある30代。投資もしっかり成果をあげている。大人っぽいのに元気はつらつ。

どちらになるか。あなたが、いま、何をするかにかかっている。(P.5)

 ジェット機を持つような富豪とか、流行りのFIREではなく、少し先にある等身大の自分の未来を想像させているのがポイントだと思う。

 会社で働き始め、30代の先輩たちとも多く知り合っている20代前半世代にとっては、このようなたとえのほうがリアルにイメージしやすい。

 これも、お金に取り組むメリットを、自分ごととしてとらえやすいアプローチだと感じた。

「お金持ちになれる」より、お金に興味を持ってくれるキラーワード

 どんなジャンルであれ、若者にとって結局重要なのは、ダサいかダサくないかではないだろうか。息子を見ていても、服でも音楽でもお笑いでもなんでも、ほぼそれだけで判断しているふしがある。

 そんな若者がきっと反応し、おそらくお金について前向きに考えるようになるであろうワードに本書で出会った。

「センス」である。「お金のセンスがいいよね」なんて言われたら、20代じゃなくても嬉しいが、これは間違いなく刺さると思う。

センスのいい人がいる。安い服でも自分のためにデザインされたように着こなす。(中略)
でも、特別な才能がなくても、ネットや雑誌をチェックして、ファッショニスタの友人にアドバイスをもらえば、誰でもかなりいい線いける。
お金にも必要なのはセンス。生まれながらにお金の天才という人もいるだろうが、ふつうの人は、基本を勉強して実行して、センスが身についてくる。貯金をすれば貯金のセンスが、投資をすれば投資のセンスが磨かれていく。(P.40)

 貯金や投資のセンスだけではない。買い物も家計管理も、保険も住宅ローンもセンスがいる。ダサいと思われることを死ぬほど嫌う若者(息子含む)にとって、「センスがよくなる」は、お金を学ぼうという気持ちを高めるキラーワードな気がする。

 お金オンチな子どもに、少しでもお金に興味を持ってもらうためにはどうすればいいか。

 すぐにできそうだと思えたのは、次の点だ。

・「貯金しなさい」など、上から目線で話さない
・本人にとってのメリット、デメリットに気づかせる
・等身大の未来を想像させる
・「センス」を使うとよさそう

 以上を活かし、次はこう切り出そうと思う。

「おしゃれでお金のセンスもいい30代と、おしゃれだけどお金オンチな30代、どっちになりたい?」

 ピクリと反応する背中が見える。少なくとも、すぐにドアを閉めることはない気がする。