1975年から投資を行い、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていたという個人投資家が、娘宛てに「お金と投資」についての手紙をしたためた。それが書籍化され、世界中でベストセラーになったのが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』(ジェイエル・コリンズ著)。たった1つに投資するだけ、というそのメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教えPhoto: Adobe Stock

投資を複雑にして儲けている人がいる

 日経平均株価が4万円を超えてからの大暴落と変動が激しくなっている株式市場。さらなる下落を心配する人、いまこそ始めるタイミングと考える人など、さまざまな形で投資に対して関心を高めている人がいることだろう。

 投資がうまくいく方法とは、どんなものなのか。さらには、どうやって始めればいいのか。いろんな思いを持っている人が少なくないのではないか。

 投資に関する本は数々あるが、自身の投資家としての成功体験を娘に伝えようと、やさしく書かれた1冊、というのは珍しいかもしれない。それが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』だ。

 著者のジェイエル・コリンズは、1975年から投資を行っている。何度も転職をする中で、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていた。その経済的な自由を手に入れたメソッドとは、どのようなものなのだろうか。

 お金や投資というと、何やら面倒そう、大変そう、というイメージが大きいかもしれない。イントロダクションでは、こんな娘からの一言が記されている。

「お金は大切だと思うけど、一生、お金のことばかり考えたくないわ」と言う娘。(P.17)

 だが、「しかし、」という言葉で著者は文章を続ける。

しかし、ファイナンスを知らないと、ファイナンスの世界で騙されてしまいます。投資をどこまでも複雑にしているのは、複雑にするほど大儲けをする人がいるからです。別の言い方をすれば、私たちに高い金を払わせ、罠にはめようとする人たちがいるのです。(P.18)

 さすがは、娘への手紙から始まった内容といえるかもしれない。投資の危険性について、まず最初に伝えてくれるのだ。

「会社に縛られないお金」が自由をくれる

 投資の具体的な手法に入る前に、著者は何のために投資をするのか、を問うている。著者が記しているのは、自由でいられること。そして、そのために「会社に縛られないお金」を持つということだ。

経済的に自立するといっても、引退後のことではありません。私は働くことが好きで、ずっとそれを楽しんできました。経済的自立とは、選択肢を持っているということです。何かあれば「ノー」と言える状態です。「会社に縛られないお金」を持ち、そのおかげで自由であるわけです。(P.22)

 一生を過ごすのに必要なお金というわけではない、と著者は記す。しばらくの間、仕事から遠ざかれるだけのお金があればいいのだ。そのためには、必要なことがあると著者はやがて気づく。控えめに生きるということだ。

 こんなたとえ話が紹介されている。

仲のよい少年が2人いました。彼らは別々の道を進みました。1人は質素な僧侶に、もう1人はお金も力もある王様側近の大人になりました。
何年もあと、2人が出会いました。でっぷり太った大臣は、やせてみすぼらい僧侶を見てかわいそうになりました。助けようと思い、大臣は声をかけました。
「王様の役に立つ方法を選べば、米と豆しか食べられない生活をしなくて済むよ」
僧侶が応えました。
「米と豆で生きる方法を学べば、王様のためにあくせくしなくて済むよ」
(P.21)

 著者が最初に「会社に縛られないお金」を手に入れたのは、25歳のとき。5000ドルを貯めた。年俸1万ドルで2年間働いた結果だった。著者はそこで、旅に出たくなった。ところが、会社は認めてくれない。そこで、会社を辞めることを決断した。「会社に縛られないお金」があったからだ。

 すると風向きが変わり、会社と交渉することになり、6週間の休暇を勝ち取った。以後、毎年1ヵ月の休暇を得る。「会社に縛られないお金」は旅行だけでなく、交渉する力ももたらしてくれたのだ。その後、4回転職し、一度はクビになった。

お金を稼いで、何を買おうというのか

 娘が生まれたのは、仕事をしていない時期だった。著者は妻に提案する。

私は言いました。「私たちには『会社に縛られないお金』がある。いい車や大きな家を買おうとは思っていない。君は仕事を続けてお金を稼いで、何を買おうというのかい? それよりも娘と一緒に家にいるほうが貴重だと思わないか」
(中略)これは私たちにとっての最高の「買い物」でした。
(P.26)

 妻は仕事を辞めた。3年間、2人とも仕事をしなかった。その間に持っていた資産が投資によって増加する。このとき、著者は経済的な自由を獲得したのだと気づいた。

 娘が生まれる前から、彼らがやっていたこと。それは、贅沢をするお金を投資に回していたことだ。

 もとより、贅沢とは何か、に彼らは気づいていた。本当は大して欲しくはないもの、本当は自分の長い人生には大して価値のないものを、案外、無理矢理に購入している。そんな面もあるのではないか。

 しかし、彼らはそうはしなかった。本当に必要なものに使ったのだ。「会社に縛られないお金」を手に入れることだ。それこそが投資だった。そして彼らに「会社に縛られないお金」を実現させたメソッド、それは3つの指針だった。

①収入の50%を確実に貯蓄していたこと。
②借金をしなかったこと(自動車もローンを組んだことはありません)。
③バンガードの創設者であり、インデックスファンドでの投資家であるジャック・ボーグルが40年も前に完成させたインデックス投資の教えをしっかり支持したこと。
(P.28)

 著者は人生でたくさんの間違いを犯してきた、と記す。しかし、この3つの指針が自分たちの望みをかなえてくれたのだという。

 そして極めてシンプル、しかも3つしかない指針なのに、誰もやっていなかったのだ。

私がやり始めたとき、同じ道を歩く人は誰もいませんでした。私自身もその道がどこに続いているのかわかりませんでした。株式の銘柄選択が騙し合いだとか、大きな儲けを狙う賭けは経済的自立に必要ないと教えてくれる人はいませんでした。(P.29)

 著者はすでに引退している。決まった時間、働かなくていい。天気のいい日に友達の誘いがあれば、いつでもバイクで出かけられる。ニューハンプシャーでぶらぶらしていたと思ったら、突然、何ヵ月間も南アフリカに旅行に行っても問題ない。気が向けばブログを更新し、また本を書くかもしれない。ベランダに座ってコーヒーを片手に読書三昧かもしれない。

「会社に縛られないお金」を手に入れるとは、そういうことだ。そんな「会社に縛られないお金」を手に入れるためのシンプルなメソッドがあるのである。

(本記事は『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。