根気強くひとつのことを考えられない、寝ても疲れが取れない、歩くのが遅くなった……。「老い」は気付かぬうちに少しずつあなたを蝕んでいく。老いを少しでも遅くしたいと願わない人などいないだろう。そこで、食事術や生活習慣といった「不老術」をアメリカの名医がまとめた本が誕生、NYタイムズベストセラーに選ばれ、エリック・シュミットといった数多くの著名人から絶賛を受けている。世界9カ国以上で刊行の話題作『医者が教える最強の不老術』より、内容の一部を編集して特別に公開する。

地球上で最も健康で長寿な人たちは、どんな生活をしているのかPhoto: Adobe Stock

イタリア・サルデーニャ島の
3000年前と変わらない生活

 世界には、自分たちも気づかないまま秘密を解き明かして、稀に見る長寿を実現している場所がある。『ナショナル・ジオグラフィック』誌の記者かつ冒険家のダン・ビュイトナーは、「ブルーゾーン」と呼ばれる、地球上最も健康で長寿を享受している人々のコミュニティがある場所を調べた(この名は、彼より前に調査を行った研究者たちが世界地図に丸をつける際に使った青色マーカーに由来している)。これらのコミュニティでは、百寿者に達する人々の割合が、アメリカの最大20倍にもなる

 ブルーゾーンを特別のものにしているのは、そこに住む人々の遺伝子ではない。というのも、ブルーゾーンの住民がより近代的な土地に移ると、病気の罹患率や死亡率が移住先の人々のものと変わらなくなるからだ。それは、遺伝子以外の何か、私がずっと追い求めてきた何かのはずである。

 そこで私はブルーゾーンに出かけることにした。そしてその地で目にしたものは、加齢、長寿、そして何より、生きることに対する私の考え方を方向づけることになったのである。

 2021年の夏、ダンの協力と助言のもと、私はサルデーニャにおけるブルーゾーンの心臓部であるオリアストラ県を訪ねた。そこは、世界で最も長寿の男性たちが暮らしている場所だ。エレオノーラ・カッタとパオラ・デムルタスというサルデーニャ出身者と彼女たちの旅行会社「ゼア」の案内で、私はサルデーニャの人々の家庭を訪れ、百寿者の世界、すなわちこの3000年間ほとんど変わっていない古代の暮らしに足を踏み入れることになった。

 サルデーニャの羊飼いが暮らすこの山岳地帯は、人里離れた内陸にある。そのため、つい最近まで、征服者や外部からの影響を受けることはなかった。私はサルデーニャの人々の話に耳を傾け、その生活様式を目にし、昔からの食物を味わい、抗酸化物質豊富なカンノナウ・ワインを楽しんだ。

 この地域の人々は古くからの食生活を守り続けている。チーズ、ワイン、保存肉、オリーブオイルの伝統的な製法を守り、地元の植物にも造詣が深く、ヒポクラテスより前から、食べ物が薬であることを理解していた!

 ここの人々は、ヤギ、ヒツジ、ブタが食べるものにこだわる。食べ物の味は動物が食べるもの、つまり植物や野菜、果物が育つ土から生まれることを知っているからだ。

 ある農家の人は「動物を殺す前に、風味を付けるんだ」と言っていた。その風味は、動物が食べた植物に含まれるファイトケミカル(植物性化学物質)に由来する。

 彼らはこれらの化合物が実際に体によいという事実は知らない。ただ美味しくなるからそうしているだけだ。サルデーニャの人たちは肉も食べる。ヤギのミルクも飲むし、毎日の食事には必ずヒツジやヤギのチーズが含まれる。

 険しい谷の片側には、いまや住む人がいなくなって朽ちかけた13世紀からの村があり、そのすぐ上に新しい村ができていた。1950年代に土石流の危険が迫ったため、村民は山の少し上に移ることを余儀なくされたのだった。

 古い廃村のはずれで、カルミネという名の84歳の羊飼いが古い石垣の上に座り、その傍らに小さな錆色のフィアット・パンダが、運転席のドアを開けたまま停まっていた。私たちが後ろからやって来るのを見かけたので、おしゃべりをしようと、車を停めて待っていたのだという。アメリカだったら、前を走っていた車に停車させられ、おしゃべりしようと話しかけられることなど、想像だにできないだろう!

 カルミネはイタリア本土に住む子どもの1人を1989年に訪ねて以来、この山の中腹を離れたことがないという。6頭のヒツジと1頭のヤギ、数羽のニワトリ、1頭のブタの世話をしながら、樹齢300年の木1本と他の若い木々からなるオリーブ園で、オリーブとともにザクロ、アーモンド、柿、イチジク、栗、ブラックベリーなどを育てている。また、広い畑では、トマト、パプリカ、ナス、チャード、イチゴ、アーティチョークなども栽培している。

 カルミネは自分の質素な生活と、この村の主食であるミネストローネスープについて語った。妻は2年前に亡くなり、結束の強い家族と友人の輪の中で暮らすサルデーニャの人々の例にもれず、妹とその娘2人と暮らしているそうだ。今は家族も少なくなったため、自分が育てたものを食べきれず、残りは家畜に与えたり、寄付したりしている。

 カルミネの日課は、家畜や畑の世話、友人たちとのおしゃべり、コミュニティの一員として役に立つこと、そして好奇心を働かせることであり、彼はそんなシンプルな暮らしを続けている。

 土地や家畜の世話以外の時間はどのように過ごしているのかと尋ねると、本をよく読む、という答えが返ってきた。そしてフィアット・パンダのハッチを開けると、世界の宗教について書かれた分厚い本を取り出した。そこから話題は神についての深い話になり(彼自身は神について、やや懐疑的だったが)、気候変動の問題へ、地球の不可逆的な破壊へと広がっていった。

 私たちは3時間にわたって、彼の人生の話を聞き、農場を見学し、ヒツジたちに古代小麦を食べに来るよう呼びかけて山の斜面を楽々と登り降りする彼を追いかけながら、交流を深めて楽しんだ。ヒツジを追って山の斜面を駆け上がるカルミネについていくのは簡単ではなかったが。

(本原稿は、『医者が教える最強の不老術』から一部を抜粋し編集しています)