高尾山なら大丈夫だと思っていた
警察庁によると、23年、山岳遭難者が最も多かったのは高尾山(133人)で、2番目が富士山(97人)だった。同年、高尾警察署管内で発生した遭難は約110件。21年は約70件。2年で57%も増加した。
「高尾山なら大丈夫だと思っていた」「登ってみたら、思ったよりきつかった」「下っている途中で足が動かなくなった」――。
これらは高尾山で、自力では下山できなくなり、救助された人たちの声だ。
ベビーカーやスーツケースを押して登る
背景には高尾山を「山」ではなく、「観光地」として訪れる人が増えたことがある。ベビーカーやスーツケースを押して登る人までいるという。
登山口からケーブルカーやリフトを使えば、8合目付近まで行ける。そこから舗装された道と薬王院の石段を登れば、山頂まで約40分(「1号路」経由の場合)。気軽さからスニーカーで登る人も多いようだ。サンダルや厚底靴の人もいた。
「サンダルやヒールの高い靴で歩くと、つまずいて転倒事故の原因となるのでやめてほしい」と、高尾警察署・山岳救助隊はくぎを刺す。
疲労から動けなくなって…
高尾山の遭難者は10代から高齢者までと幅広く、特に70代が多いという。転倒のほか、体力不足による疲労から動けなくなり、救助を求める人も少なくない。
隊員は「高尾山でも登山計画をしっかり立てて、自分の技術や体力で登れる山なのか、事前に調べてから登ってほしい」と話す。
同署はJR高尾駅北口と京王線高尾山口駅改札に「登山届提出箱」を設け、登山計画書を投函するように促している。しかし、提出者はごくわずかだ。
「最低限、『高尾山に登る』と、誰かに伝えてきてほしい」(山岳救助隊)。帰宅しなかった場合、家族や友人が遭難に気づき、救助される確率が高まるからだ。
コースタイムも知らない
高尾山で登山講習会などを開催しているゲストハウス「Mt.TAKAO BASE CAMP」の店長・加藤もと子さんは、こう漏らす。
「高尾山には計7つのルートがありますが、お客さんに『何号路を登りますか』と聞いても、『えっ、何号路ってなんですか』『そんなにたくさん道があるんですか』と、反応されることが珍しくない。『何時間くらいで登れますか』と、聞かれることもよくあります」
日本アルプスなどの高い山に登る場合とは違い、事前にルートやコースタイムを自分で調べずに登ることが遭難に結びついていると、加藤さんは感じている。
遭難が多いのはゴールデンウィーク、夏休みシーズン、そしてこれからの紅葉シーズン。特に11月は遭難が最も多くなる。