雷写真はイメージです Photo:PIXTA

アウトドア人気の高まりにつれ、山での遭難事故が多発している。雄大な山々にはさまざまな危険が潜んでおり、「こんなことで……」という事故で命を落とすこともある。どうすれば山から元気に戻ってこられるのか。本稿は、羽根田 治『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と溪谷社)の一部を抜粋・編集したものです。

ケース1「すべって落ちて死ぬ」
「転滑落事故多発ゾーン」をリストアップ

 2泊3日の予定で、槍・穂高連峰に入山した60代女性の行方がわからなくなりました。8月下旬、女性は単独で上高地から入山し、その日は涸沢の山小屋に宿泊。翌日は北穂高岳を往復するため小屋を出発しましたが、夕方になっても戻らなかったため、山小屋が家族に連絡し、家族が警察へ一報を入れました。

 警察は翌朝から捜索を開始し、昼前、北穂高岳南稜の標高約2890メートルの斜面で、倒れている女性登山者を発見し、死亡を確認しました。現場の状況から、女性は登山道から50メートルほど滑落したものとみられています。悪天候のため、遺体を収容できたのは発見から4日後のことで、遺体は行方不明の女性であることが確認されました。

「転滑落事故多発ゾーン」ワースト6

◎痩せ尾根
 両側がすっぱり切れ落ちた尾根上は、高度感があり緊張を強いられる。慣れていないと恐怖で足がすくんでしまい、いっそう危険だ。

◎岩場
 標高の高い山ばかりではなく、低山の一般登山道にも岩場はある。通過には3点支持による登下降のテクニックが要求される。

◎狭い登山道
 山腹を横切るようにつけられた細い登山道では、バランスを崩して谷側に滑落する事故が起きている。すれ違い時はとくに要注意。

◎急斜面
 傾斜がきつい斜面を登り下りするときは体勢が不安定になりやすい。足の置き場に注意しないと、スリップして滑落してしまう。

◎雪渓
 夏でも雪が残る雪渓上のルートでは、滑落事故が多発している。予定ルートに雪渓がある場合は軽アイゼンを携行したほうがいい。

◎下り
 転滑落事故は、疲労が蓄積してくる午後の時間帯の下りで起きやすい。一日の行動の終わりが近づき、つい気がゆるんでしまうのも一因。

◆死なないために
 転滑落事故の大半は、油断や不注意などが引き金となる。とくに疲れていると注意力が散漫になりやすい。転滑落の危険がある岩稜帯や岩場、急斜面などはもちろんだが、安全そうに見える場所でも事故は起きているので、気を緩めずに行動したい。また、事故多発地帯ではヘルメットを着用しよう。