いまビジネスの現場では、マネジメント層が若手に対して指導したいこと・改善してほしいことがあっても、「ハラスメント」になるのを恐れてなかなか言い出せずにいる。一方で若手の側も、上司への不満は立場的に口にしづらい。結果的に、お互いが言いたいことを言えずにストレスを溜めこんでいるのが現状だ。
そこで今回は、2024年上半期・2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となり、「もっと早く読んでいればと後悔すらした」「ぶっ刺さりすぎて声出た」と反響を呼び続けている『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さんと、人材育成や組織基盤の構築支援を行なっている株式会社Momentor代表の坂井風太さんに、読者から寄せられた仕事の悩みにご回答いただいた。(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)
「優秀な人が育たない職場」の根本的な問題とは?
【読者からのお悩み】 仕事を任せないと部下が成長しないのは理解していますが、クオリティやスピードを優先して、どうしても自己完結させてしまいがちです。部下にうまく仕事を任せるコツはありますか?
安達裕哉(以下、安達) 少しキツい言い方かもしれませんが、自分で何でもやってしまう管理職は、部下に仕事を任せて失敗したときの「責任を取る覚悟」が決まっていないんだと思います。
坂井風太(以下、坂井) なるほど、興味深い視点ですね。
安達 部下に任せるべき仕事を上司がやれば、遅れやミスが起きにくいのは事実です。しかし、仕事がスムーズに回っているように見えるだけで、長期的には「仕事ができない社員」を量産するだけです。
つまり、上司自らが現場レベルの仕事を片づけてしまうことで、部下のスキルアップの機会を取り上げているわけです。優秀な人が育たない職場ほど、このような「悪気なく部下の仕事を奪う管理職」という問題分子がいますよね。悪気はなくても、組織にとっては最悪です。
逆に、大事な仕事を部下に振れば、いつか必ず失敗して、顧客や社内に対して上司が頭を下げないといけない場面が訪れるでしょう。でもそれは、組織の持続的な成長にとって不可欠なプロセスなんです。
坂井 部下に仕事を任せるときに大事なのは、部下の失敗やミスの責任を引き受ける「覚悟」だということですね。
安達 そうですね。僕自身、コンサルタント時代にマネジャーに昇格した際、最初のうちは様々な業務を自分ひとりで完結させていて、それで仕事をした気になっていました。
しかし、あるときに周りから「上司が部下の仕事までやるのは、職務放棄と同じだ」「上司の仕事は、部下のミスの責任を引き受けて顧客に謝りに行くことだ」と諭されてハッとした記憶があります。
部下に仕事を任せるときの「3つの条件」
坂井 別の観点でいうと、まずはできるだけ納期に余裕があって、事業規模がそれほど大きくない仕事から任せていくべきでしょうね。そうすれば、部下にストレスがかかりすぎず、かりに失敗しても上司がカバーできるからです。
また、仕事を任せるときに、「絶対に外してはいけないポイント」だけは最初に伝えておくべきだと思います。具体的にいうと、100点満点で70点が取れるラインまでは、そのポイントを押さえれば到達できるようにしてあげるイメージです。
あとは、報告・連絡・相談(報連相)が機能不全になりがちなので、部下からの働きかけを待つのではなく、仕事のプロセスに「報連相タイム」を事前に組み込んでおくのも有効な手ですね。
安達 私が以前勤めていた会社では、部下に仕事を任せるときは「3つの条件」がありました。1つめが、「標準化された資料を渡す」ことです。これは、社内で使われているテンプレートや自分がかつて使っていた資料を、仕事を進めるうえでの指針にしてもらうためです。
2つめが、その資料の具体的な使い方を、「研修」のような形できちんと教えることです。資料をただ渡して「あとは自分でやってね」というのはNGで、どのように活用するのかを明示的に教えてあげる必要があるからです。
3つめが、お客さんのもとへ部下を派遣するときは、「絶対に1人で行かせる」ということです。
坂井 なるほど、現場では「自分の頭」を使って試行錯誤させるんですね。
安達 まさにその通りです。上司が同席してしまうと、どうしても部下が100%の力を出せなくなります。なので、仕事の手順については資料を使って丁寧に教えたうえで、対顧客の場面では1人でやらせる。
そうすると、部下も覚悟を決めて仕事に向き合うようになるので、がぜん成長するようになるんですよね。
坂井 先ほどの僕の話に重ね合わせると、「標準化した資料と教育システム」を整えることで、100点満点のうち70点のアウトプットまでは出るようにしておく。そして、残りの30点については、上司が横にいるとやりづらいので、1人でチャレンジさせるということですね。
安達 まさにそのイメージです。部下の成長を促すという意味で、非常に理に適ったシステムだったと思っています。
(本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏の対談記事です)
Books&Apps運営、企業コンサルティング
Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に、2024年上半期・2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となった『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。