「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二弁護士/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
メンタル病んでいそうな部下に休職をすすめてもいい?
30代男性。ここ数ヵ月、深夜まで毎日残業している。眠れない状態が続いており、仕事中に突然涙が出たり、後輩に話しかけられただけで「自分で考えろ!」とどなったりしてしまうことも。仕事でケアレスミスも多くなっていた。そんなときに上司から呼び出されて、「体調があまりよくなさそうなので、少し休んではどうか?」と言われた。病人扱いされてショックを受けた。
休職は、あくまで「労働者の健康及び雇用維持に配慮する制度」です。
そのため、正しく行使されるかぎり、休職を命じる行為やすすめる行為がパワハラと評価されることはありません。
したがって、今回のケースの場合は、言われた本人が病人扱いされたことに対して不当だと感じているものですが、本人の体調を鑑みて上司が提案しているにすぎず、パワハラと判断するのは困難だと思われます。
しかし、休職制度が正しく運用されていない場合には、当然休職することを指示したり、すすめたりする行為は違法となりえます。
この「休職制度が正しく運用されていない場合」とは、
●業務上の心身の故障であることが客観的に明白で、本来労災として扱うべき案件なのに、私傷病(業務外の原因に基づく心身の故障)と強弁したり、労働者側の無知につけこんだりして私傷病休職で処理しようとする場合
●労働者の心身に問題がないのに、退職に追いこむために無理やり休職を命じる場合
などが考えられます。
病気は仕事が原因? それとも業務外が原因?
「社員本人が就労に適さない健康状態にある」ことについて、労使間で争いがないときでも、体調不良の原因が業務に起因するものなのか、業務外の理由によるものなのかについて、労使間で見解が対立するケースはめずらしくありません。
たとえば、行政の労災基準では、長時間労働を理由とするメンタル不調は、月100時間以上の時間外労働が3ヵ月続いているなど、極めて過重な業務が行われた場合がこれに該当するとされています。
このように、メンタル不調が業務上のものと認められるハードルは相当に高く、「業務に起因していることが明らか」というケースは極めて限定的です。
そのため、会社側も社員のメンタル不調を軽々に「業務災害」と認めることはできません。
業務上のメンタル不調かどうか明確でない場合に、「私傷病」として処理することが違法なハラスメントと評価されることはあまり考えられないと思われます。
本人が回復しているのに退職に追い込むのは許されない
また、私傷病休職の場合、休職期間内に心身の状態が回復しなければ自然退職となることがルール化されています。
休職制度が正しく適用されて一定期間休息したものの、結局、労働能力が回復しなかったという場合、退職はやむをえないといえます。
でも、そうでない場合に休職制度を悪用して退職に追いこむことは、当然、許されません。
たとえば、休職の結果、労働能力がほぼ回復しているとか、ほどなく回復することが見こまれるような場合に、会社側が明確な根拠もなく「労働能力は回復していない」と強弁して復職を認めないような場合です。
このように、自然退職に追いこもうとする行為は、違法となる可能性が高いといえそうです。
※『それ、パワハラですよ?』では、パワハラになるかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。ビジネスマナーとして、管理職、リーダーはもちろん、部下も読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。