連日パワハラについて報道されています。上司からすれば「部下に注意・指導したい……でも、強く言いすぎただけでパワハラになるのかな?」と不安に思ったり、部下からすれば「自分は部下だから、どんな理不尽な指導でも、全部受け入れなければいけないのかな」など思ってしまったりしますよね。そんなあいまいな「パワハラ」と「指導」の境界線をはっきり教えてくれるのが『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)です。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。本書では職場でよくあるハラスメントのケースを85の具体的な事例とともに紹介。これを読めば「令和時代のハラスメントの常識」がしっかり身につきます。管理職、リーダーはもちろん、組織に所属する人は誰もが読むべき1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介します。
「正論を言っている」つもりでも、暴言は許されない
上司や先輩が、部下・後輩に対して感情的な暴言を吐く。
以前に比べて、このようなことは減ってきたかもしれませんが、昨今のニュースを見ていると、時代錯誤のような言動を続けている職場はあるようです。
いくら内容的には正しかったとしても、物事には言い方というものがあります。
強い言葉を一方的に浴びせられた側には、大きなショックを受けてしまう人もいるでしょう。
職場の暴言や恫喝が許容される余地はあるのでしょうか。
結論からいえば、常識的に明らかな暴言や恫喝は社会的に許される行為ではなく、職場であるからといって、許容される道理はありません。
したがって、上司や先輩側がどれほど自分の言っていることは正しいと思っていたとしても、相手の人格を否定するような暴言を吐く行為や、相手の恐怖心をあおるような行為は許されるものではなく、違法なパワハラとなります。
具体例を見ていきましょう。
何度もミスする部下に「バカ」って言っていいですか?
【解説】
相手の人格を否定したり、その雇用不安をあおったりする発言は、いかなる場合も許容されることはありません。
「死ね」という発言は相手の人生や生命を直接否定するものであり、その人格を著しく否定するものと言わざるをえません。
また、「辞めちまえ(退職しろ)」という発言も相手の雇用不安を直接あおる行為であり、許されないといえます。
このような直接的な暴言が違法なパワハラとなることは当然です。
「バカ」「死ね」のような直接的な暴言ではなくても、相手の人格否定や雇用不安につながるような発言は、繰り返せば暴言・恫喝の類いとしてパワハラであると評価される可能性があります。
また、言葉を用いなくても、机をどんどん叩いたり、そばにあるものを蹴飛ばしたりと、間接的な暴力行為も同様の評価を受ける可能性があります。
会社による叱責や注意指導は、基本的には再発防止の観点からされるものです。
再発防止のために相手の人格を否定したり、その雇用不安をことさらあおったりする必要などないのです。
※『それ、パワハラですよ?』では、部下に言ったら一発アウトになる言動など職場のハラスメントに関する知識を事例をもとに徹底解説。令和時代のハラスメント常識が身につく1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。