「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
育休を終えて復職したら、「課長職を降りろ」と言われた
30代女性。育休前は10人いる部署の課長だった。1年の育児休業から復帰した直後に上司から呼び出され、「これから新入社員も入ってきて、人数も増える。マネジメントも大変だと思うので、課長職は降りてもらい、いちメンバーとして復帰してほしい」と言われた。課長職には同僚が就く予定だという。育休前は問題なく仕事を行っていたし、育休の期間はあらかじめ申請していたのに、降格は不当ではないか?
【解説】
育児介護休業法では、「事業主は、労働者が……育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と、男女雇用機会均等法と同様の禁止規定を定めています。
そして行政通達は、「妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に行われた不利益な取扱いは、原則として法令に違反する不利益取扱いと評価すべき」ことを謳っています。
つまり、育児休業を終了して1年以内に、労働者に対して降格などの処分がされた場合は、これを正当化する事業運営上のたしかな理由がないかぎり、法令に違反する不利益取扱いとして、違法行為となる可能性が高いということです。
事情があれば、「不利益な処分」が許容されるケースもある
ちなみに、次の場合のように、労働者に対する不利益な処分が許容されるケースもあります。
●企業側による正確かつ十分な説明をふまえて、労働者が処分内容に承諾しており、かつこれを承諾することに合理的な理由があると認められる場合
●企業側で降格処分をしなければ、円滑な業務運営や人員の適正配置に明確な支障があり、労働者の不利益を考慮してもやむをえないと認められる場合
今回のケースのように、育児休業を終えて復職したタイミングで降格の処分を行うことは、企業側にこれを正当化する十分な理由がないかぎり、「違法なマタハラ」と考えるべきでしょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、ハラスメントかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。部下も管理職も「ハラスメント問題」から身を守るために読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。