「社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることがある。本書は「そんなことがパワハラになるの?」と自分でも気づかない「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれる。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。これを読めば「ハラスメントの意外な落とし穴」を回避できる。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
職場の人の悪口を言うのは法律的にアウト? セーフ?
同僚と話していると、つい愚痴りたくなって、誰かの悪口で盛り上がることもあるでしょう。
職場で陰口を言うことは、そもそも法律的に許されるのでしょうか。
職場内で誰かの陰口や悪口を言うことは、直接的には名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害といった問題が考えられます。
しかしながら、名誉毀損や侮辱に該当するためには、「不特定多数に向けて行われる」必要があります。
そのため、特定の個人間でコソコソとうわさがされる程度に留まる場合であれば、ただちに名誉毀損や侮辱にはなりにくいように思われます。
他方、プライバシー侵害については、不特定多数に向けた情報発信でなくても、侵害行為が成立する可能性があります。
たとえば、特定の個人やグループ内であっても、「総務部の〇〇さん、営業部の部長と不倫しているんだよ」などと、私生活上の事柄を暴露したりすれば、プライバシーの侵害として違法行為にもなりえます。
また、たとえプライバシー侵害や名誉毀損、侮辱とは厳密には認められないとしても、侮辱的なひどい陰口を言われたり、自身のプライバシーにかかわる事柄がヒソヒソとささやかれたり、ということが長期にわたって繰り返されれば、当然、職場環境は悪くなります。
陰口やプライバシーの暴露が業務上必要でないのは明らかなことをふまえると、陰口や暴露を率先して拡散する行為は、職場での(パワー)ハラスメント行為として違法性を帯びることも十分考えられます。
「あいつは仕事ができない」と陰口を言いふらす
40代男性。自分のいないところで、上司が「あいつは変わっている」「仕事ができない」「どこに行ってもトラブルを起こす人だ」などと悪口を言っているらしく、周りから避けられるようになった。
【解説】
上司が部下の仕事ぶりや個性を周囲に対して共有する行為は、まず、「情報共有が業務上必要かどうか」を慎重に検討しなければなりません。
たとえば、部下のミスや間違いが業務上の危険や損失につながりかねない場合には、周囲への注意喚起の趣旨で情報共有することもあるでしょう。
この場合、よほど侮辱的な言動でないかぎり、パワハラという評価は受けにくいと考えます。
悪口を吹聴する行為はパワハラになる可能性も
これに対し、情報共有の必要性が乏しい場合には、部下のミスや誤りをことさら周囲に吹聴する合理的理由は見出し難いといえます。
吹聴した内容や吹聴された範囲・状況等から社会的相当性を欠くような場合には、パワハラになるという評価がありえます。
たとえば、本人がいないのをいいことに、上司が同一部署の複数名に対して部下のミスや間違いを吹聴するような行為は、当該部下を孤立化させて、その職場環境を害する危険があります。
そのため、このような吹聴行為が繰り返された場合には、パワハラになるという評価は十分にありえます。
本人のミスについての言及だけでなく、本人の人格を否定・軽視するような侮辱的な発言をする場合も同じことがいえるでしょう。
今回のケースの場合は、上司が不特定多数の社員に悪い評価を吹聴しており、周りから避けられるなどして、職場環境の悪化が認められるため、パワハラになる可能性があります。
飲み会での愚痴るのもパワハラ?
なお、職場での情報共有とは異なり、上司が他の部下と飲みに行った際に業務上の愚痴として、部下の個性やミスに若干言及することもあるかもしれません。
その程度であれば、ただちに相手の職場環境が害されるものではないので、パワハラという評価にはなりにくいと考えます。
一方、大勢が参加する職場の飲み会で、特定の社員の恥を言いふらしてこきおろす行為は、相手の職場環境を害するパワハラになる可能性があるので、注意しましょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人はもちろん、すべての働く人が読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。