「円安?」「国債?」「チャットGPT?」よく耳にするけれど、実際のところ何のことなのか、何が問題なのかわからないまま……そんな今さら聞けないニュースや用語の数々を、どこよりも楽しく、そしてわかりやすくご紹介します!大人気アニメ「秘密結社 鷹の爪」の吉田くんが新聞記者となって、世の中の経済ニュース・時事用語を基本からていねいに紐解き話題となっている書籍『「鷹の爪」の吉田くんが聞く!経済ニュースと時事用語がめちゃくちゃわかる本』の中から一部を抜粋、編集してお伝えします。
本連載は、好奇心旺盛な「鷹の爪」吉田くんの質問を、先輩であるアカツキ記者が答えていく会話形式で構成されています。今回のテーマは「日本の半導体業界」です。
なんで台湾の会社が熊本に半導体の工場をつくるんですか?
吉田くん(以下、吉田):ぎゃあ! 先輩大変です。熊本にめちゃくちゃ大きな工場ができて、「半胴体」を大量に作り出してるそうです。胴体が半分しかない怪人が攻めてくる前に逃げないと。
アカツキ先輩(以下、アカツキ):落ち着け吉田。それは「半胴体」じゃなくて、コンピューターの頭脳にあたる「半導体」だ。台湾の台湾積体電路製造、通称TSMCという会社が2024年に熊本県菊陽町に新工場を完成させた。
吉田:半導体は胴体じゃなくて頭脳なんすね。って、なんで工場で頭脳を作るんですか。
アカツキ:半導体は、細かい回路の中に電気を通すことで情報を記憶したり、計算したりする部品だ。家電などを分解したときに、配線の中にある黒い四角い部品を見たことがないか? あれが半導体だ。TSMCは世界中の企業から半導体の生産を請け負う「受託製造」のビジネスモデルで世界シェアの約60%を占め、圧倒的な地位を誇る。2024年7月末の時価総額では世界12位。ちなみに、日本で最も時価総額が高いトヨタ自動車は36位だ。
吉田:トヨタより大きいんですか! でもなんで台湾の会社が熊本に工場を建てるんですか。もしかして、あのほっぺが赤い熊のキャラクターが目当てですか。
日本政府からの熱いラブコール。建設費の4割は補助金
アカツキ:実は、日本政府が熱心にTSMCを誘致した結果なんだ。政府は第1工場に4760億円、第2工場に7320億円の補助をする。建設費などの4割は補助金でまかなえる計算だ。日本の中でも熊本が選ばれたのは、TSMCとスマホカメラ向け部品などで協業関係にあるソニーが熊本に半導体工場を持っており、その隣接地に大きな工場用地が確保できたからだといわれている。
吉田:なんでそんな大金を出して台湾の会社を呼んだんですか。日本の会社じゃダメだったんですか。
中国が台湾を武力で統一しようとする可能性が否定できないことが大きな理由
アカツキ:いい質問が二つ続いたから、分けて答えるぞ。まず、日本が台湾のTSMCを誘致したのは、中国が台湾を武力で統一しようとする可能性が否定できないことが大きな理由だ。先ほども言ったようにTSMCは世界最大級の半導体メーカーで、家電や自動車などあらゆる製品にTSMCの半導体が使われている。もしも中国と台湾の間で戦争が起きたら、TSMCから半導体が調達できなくなり、日本の製造業はとんでもない打撃を受ける。
吉田:台湾と中国が戦争になったら、台湾の工場だって無事じゃ済まないかもしれませんしね。
アカツキ:そしてもう一つの質問、なんで日本企業じゃダメだったか。もう吉田にも答えが見えてきたんじゃないか?
吉田:えーっと、くまモンが台湾料理好きだからですかね。ルーローハンとか、シェントウジャンとか。
アカツキ:あぁ、シェントウジャンは朝食にいいよなぁ……ってそうじゃない。とても残念なことだが、日本企業では世界のトップを走るTSMCの代わりは務まらないからだ。半導体の性能は回路の線の幅で表され、TSMCは世界で最先端の「3ナノメートル」の技術を持つ。ナノは10億分の1だから、とんでもない細かさだ。熊本の工場で作る半導体は最先端のものではなく10~20ナノメートル台の製品とみられているが、実は日本メーカーの技術では40ナノメートルまでしか作れない。日本は高額の補助金を出すことで、自分たちには作れないレベルの半導体を国内で作ってもらう必要があったということなんだ。
吉田:日本の半導体の技術って、世界からそんなに遅れてるんですか。こうなったら、米粒に文字を書ける伝統工芸の職人さんにお願いして転職してもらいましょう!
※本稿は『「鷹の爪」の吉田くんが聞く!経済ニュースと時事用語がめちゃくちゃわかる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
※吉田くんとアカツキ先輩が活躍中のアニメ連載「そもそも?知りたい吉田くん」は朝日新聞デジタルで読むことができます。