社員の成長を阻害する

 お金を大切にするのは大事だが、それでは社員の、お金を使ってものごとを解決したり、新たな価値を創造したりする能力がまるで育たない。イノベーションも生まれにくい。なにより、みじめである。

 筆者は日本の失われた30年の原因の一つは、中間管理職クラスの投資経験のなさにあると考えている。お金を使ってチャレンジをする経験と能力を得る機会が奪われすぎてしまったのだ。

 まずは小さくても、お金を使う体験をしよう。そうしないと組織もあなたも成長しない。新規事業創出も、改革も、DXもイノベーションも絵に描いた餅のままである。
 自力でできること、タダでできることには限界がある。なによりケチで野暮ったい組織に意欲的な人は集まらない。

「お金を使わせてほしい」と進言しよう

 上記の副作用を匂わせつつ、お金を使わせてくれと上長や経営陣に進言しよう。

「会社の成長のため」「ビジネスパーソンとして成長したい」「皆のエンゲージメントを高めたい」など、思いや危機感を真摯に伝え、お金を使う権限を手に入れる(あるいは失われた権限を自分たちの手に取り戻す)。

 もちろん組織のお金を使う以上、説明責任や成果を出す責任がある。その説明能力やストーリー構築能力も高めていこう。

まずは小さくお金を使ってみる

 繁忙期に事務作業を外注する、会社の経費で本を買って皆で知識を仕入れるなど、あなたのチームの中で小さくお金を使ってみよう。

 そしてお金を使ってみて良かったこと、ラクになったことなどを言語化して周りに伝えていく。こうして、お金を使ってものごとを解決する発想や習慣を組織に少しずつインストールしていこう。

 どんな目的で、誰に対して、どうお金を使うか。どんなビジョンを持った企業と付き合い、お金を払うか。
 お金を使う行為は、いわば組織の意思表示であり、それこそが組織文化を創る部分も大きい。

 なにより企業は経済を正しく回す社会的責任がある。コスト削減一辺倒の文化が経済を停滞させ、安売りジャパン、賃金が上がらない日本を創ってしまった部分も大いにある。企業の社会的責任を全うするために、日本の経済を上向きにするために、一人ひとりが組織のお金を正しく使おう。

 一歩踏みだす!

 ・「お金を使わせてくれ」と進言する
 ・チーム単位で、小さくお金を使ってみる

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。