「あなたの職場は、退職者を裏切り者扱いしていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「退職者に冷たくする職場」の問題点について指摘します。

人が辞めていく職場は「退職者を裏切り者扱い」する。では、人が辞めない職場はどうしている?退職者を裏切り者扱いしていないか?(イラスト:ナカオテッペイ)

退職者を裏切り者扱いする組織

 退職者もその組織の大事な関係人口の一つだ。そして、退職者をどう見ているかにも企業体質が表れる。

 人材の流動性は高まっており、今や転職は珍しくない。転職を重ねて経験を積み、より高い価値を発揮する人もいる。にもかかわらず、今なお退職者を裏切り者扱いする人たちもいるから驚きだ。

 辞めたらいっさい連絡を取らないどころか、まだ退職前だというのに、あからさまに嫌がらせ(情報を共有しない、有給休暇を消化させない、ハラスメントまがいの言動や行動など)をする。なかには同業他社に転職した人の悪評判を、あえて協力会社や業界関係者に話すような人もいる。

 他社に転職後、再び前いた企業に転職して戻ってくる、いわゆる「出戻り」についても面白く思わない人がいる。

「会社の経営が苦しいときも、自分たちは頑張って耐え忍んできたのに」
「いったいどの面を下げて、再びウチの門をくぐるのか」

 そんな嫌みの一つも言いたくなる気持ちもわかる。

裏切り者扱いする態度は、見苦しい

 率直に言おう。
 退職者を裏切り者扱いするような会社は時代遅れであり、残念な会社だ。
 世の人たちから「徳のない会社」「独り善がりな企業」「幼稚な組織」と思われても仕方がない。

 退職者に塩対応を浴びせる人の態度を見て、「大人げない」「情けない」と思う社員もいる。もしステップアップとなる転職をした人に対して、次のようなことを言う社員を見て、あなたはどう思うだろうか。

「あいつは使えなかったし、次の会社でもどうせダメだろ」

 ただの負け惜しみに聞こえないだろうか。そんなことを言う人と同じ職場にいる自分がみじめに思えてこないだろうか。 

 もちろん、辞められた組織の人たちの気持ちもわかる。手塩にかけて育ててきた人が他社に転職してしまう悔しさもわかる。しかし退職者への不満や愚痴は、残っている社員たちのエンゲージメントも下げてしまうのだ。

裏切り者ではなく、卒業生だと考えよう

 最近はアルムナイ・コミュニティを形成する企業もある。
 アルムナイは卒業生や同窓生を示す英語で、転じて退職者を示す概念として使われ始めている。SOMPOホールディングス、味の素、NTTデータなど自社から離職・転職した人とつながり合うことに意欲的な日系企業も多い。

 退職者を仲間と見て、つながり続けることで、復職や再雇用、複業での参画、業務委託、新規事業への出資、または一緒にプロジェクトを組むなど、新たな関係での共創が生まれる。筆者もかつて勤務していたNTTデータとは良好な関係で、今なお相談をもらって一緒に仕事をしたり、社員と対談をしたり、取材を受けたりすることもある。転職者の数と同じだけ、他社や社会とのつながりが増える。そう考えればよいではないか。

 他にも、出産を機に退職した社員が、その後、子育てしながら働きやすい制度が整ったことをアルムナイのネットワークで知り、復職するケースもある。出戻りが忌避される風潮もあると述べたが、出戻り社員は最強の即戦力である。人材不足の昨今、その戦力を活用しない手はない。

 アルムナイ同士がつながって事業を立ち上げるケースもある。アルムナイの活躍は、その企業のブランド価値も高める。「良い人を輩出する企業」の印象が世の中に伝わり、採用にもプラスに働くだろう。