「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二弁護士/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
具体的な指示を出さず、何度も仕事のやり直しを求める
20代女性。企画職の仕事をしているが、上司に業務を過度に管理され、何度もやり直しをさせられる。「これこの前教えたよね」「なぜできるようにならないのか」「ちゃんと考えて仕事して」などの嫌味が多い。自分なりに一生懸命考えて仕事をしているのに、具体的な指導はなく、漠然とした嫌味ばかり。あまりにもやり直しをさせられるので、「任せてもらえないのなら仕事を辞めたほうがいいのでは」と感じている。
【解説】
部下から提出された成果物について、上司が内容をチェックしてやり直しを命じることは、実社会では当然想定されることです。
これが何度か繰り返されたとしても、それのみでただちに違法とはなりません。
しかしながら、次のケースはハラスメントに当たる可能性があります。
●なぜやり直しが必要なのかを説明せずにただやり直しを求めたり、必要な修正部分を明らかにしないで全体的にやり直すよう命じたりする
●成果物の内容を見ることもしないで、やり直すように命じる
このような場合、業務上の必要性が不透明であり、行動として非常識であるとして、正しい権限の行使とは認められない可能性があります。
こういった行為が繰り返されれば、やはりパワハラと評価される可能性はあるでしょう。
差し戻す理由を合理的に説明できない場合は、パワハラになる可能性が高くなる
今回のケースは、上司から明確な理由も説明されず、嫌味っぽく業務を差し戻すことが繰り返されています。
この点は、問題視されてもしかたがないように思われます。
そして、上司側で業務を差し戻す理由を合理的に説明できないような場合は、パワハラであると評価される可能性は高まります。
「とりあえず直しといて」ではなく、「何をどう直せばいいか」指示する
しかし、次のようなケースは業務指示そのものに問題があるとして、パワハラと評価される可能性はやはり否定できません。
●やり直しの理由をちゃんと説明しない
●改善のためのサポートをまったくしない
●言う必要のない嫌味を繰り返す
部下にやり直しを求める場合は、「なんかよくないんだよなぁ」「とりあえず直しといて」などの抽象的な指摘ではなく、「どの部分がどういう理由で的確でない」「この部分をこのような内容に修正してほしい」などの具体的な説明をするほうがハラスメントのトラブルに発展することを予防できます。
何より業務が円滑に進められるでしょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、パワハラになるかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。令和時代に必須のコミュニケーションスキルを身につけるために、管理職、リーダーはもちろん、部下も読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。