もはや中国の「裏庭」 中南米で高まる存在感Photo:Anadolu/gettyimages

 米国境の南で、中国の存在感が高まっている。

 中国の習近平国家主席は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)と20カ国・地域(G20)の首脳会議に合わせて中南米・カリブ海地域を訪問している。中国はメキシコとコロンビアを除いたこの地域の大部分の国で米国に代わって主要な貿易相手国となり、米国を除外したインフラ整備計画に大半の国を参加させている。ペルーでは、習氏はアジアとの貿易を加速させる巨大港の開港式に参加した。

 中国はアルゼンチンのリチウム、ベネズエラの原油、ブラジルの鉄鉱石と大豆を大量に購入している。米ウィリアム・アンド・メアリー大学の研究機関エイドデータが集計した、中国の同地域でのプロジェクト総額は2861億ドル(約44兆1600億円)に上り、これにはコロンビア首都ボゴタやメキシコ首都メキシコ市での地下鉄事業やエクアドルでの水力発電ダム事業といった案件が含まれる。総額は中国のアフリカでの事業に迫る規模だが、融資モデルは修正され、反発も少ない。

 中南米を米国の「裏庭」と見る向きはもはや少ない。

 この地域の国々は概して米国との良好な関係を望んでいるが、米政府からは「二の次」と見なされている。一方、中国の外交官や企業幹部は、政治的立場にほぼ関係なく、この地域の地方政府や中央政府に積極的に関わっている。

 米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で米州プログラム担当ディレクターを務めるライアン・バーグ氏は、「非常にフラストレーションがたまる。この地域には米国企業が望むものが全てあるのに」と語った。

 経済的つながりの深化に加え、習主席は、時代遅れの植民地主義の遺物だと示唆する米国主導の戦後秩序とは一線を画す統治モデルを推進している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)で中国の影響力を研究する部門のディレクター、アルバロ・メンデス氏は、習氏がこの地域に継続的に関心を示していることは「象徴的であり、グローバルサウス(新興国・途上国)はそのように存在を認めてもらうことを必要としている」と指摘する。

 米大統領1期目のトランプ氏は中南米地域について、望まない移民の出身地だと主に捉えていた。しかし同氏が今後、中国との関係を制限するよう各国に圧力をかければ、一部の国は難しい選択に追い込まれる可能性がある。米シンクタンク、インターアメリカン・ダイアログの中南米専門家マイケル・シフター氏は「中南米の多くの人々は、この重要な問題について今後4年間に何が待ち受けているかを心配している」と述べた。同時に、トランプ次期政権が関税を引き上げれば、一部の国が中国に接近する可能性もある。