欧州の友人たちは今年も厳しい年となっている。アムステルダムの街では、ユダヤ系を狙った暴徒による襲撃という、ナチス時代後の欧州で特に衝撃的な集団迫害行為が起きた。フランスの統計によると、2023年の同国の出生数は第2次世界大戦後のどの年よりも少なかった。ユーロ圏の景気は全体的に停滞し、インドがドイツを抜いて世界3位の経済大国になりそうだ。中国の輸出が急増し、欧州の主要産業を脅かしている。苦戦している欧州ハイテク企業は米国、中国、インド、イスラエルの競合他社に一段と後れを取っている。
欧州の安全保障状況も同様に厳しい。北朝鮮の部隊がウクライナでの戦闘に備える中、ウクライナ政策を巡る西側諸国の脆弱(ぜいじゃく)なコンセンサスは崩壊した。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、恐らく次の選挙での得票狙いだろうが、欧州首脳間の結束を乱してロシアのウラジーミル・プーチン大統領に電話をかけた。プーチン氏の反応はショルツ氏に都合の良いものではなかった。両氏が電話会談を終えてから、ロシアはウクライナへのミサイル攻撃を著しくエスカレートさせた。大西洋の反対側ではバイデン米政権が、ウクライナが長射程ミサイルを使用してロシア領内の奥深くの標的を攻撃することを認め、ドイツを一段と孤立させた。
さらに悪いことに、欧州はドナルド・トランプ氏が米大統領に返り咲くことによって失うものが最も多い地域になる。安全保障、貿易、技術、気候変動のどれをとっても、トランプ氏のアプローチは欧州の期待や計画とほぼ正反対だ。トランプ氏が計画する関税措置は、主要な欧州企業の業績に打撃を与えるだろう。リオデジャネイロで今週開かれている20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に参加した欧州の外交官らは、政府が多国籍企業からより多くの税収を得る目的で設計された国際課税制度について、崩壊の可能性が高いことを悲しんでいる。アゼルバイジャンで開かれている国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、欧州の外交官(とレームダック化したバイデン政権の外交官)が、トランプ政権発足後にパリ協定はどうなるのかについて思いを巡らせながら、心配するだけの状態になっている。欧州連合(EU)が米国製品に「国境炭素税」を課そうとすれば、強い反発が生じるだろう。また、トランプ氏はシリコンバレーのハイテク界の大物との間で個人的に問題を抱えてはいるものの、米国に本拠を置く企業から何十億ドルもの罰金を徴収しようとする欧州の取り組みに賛同する可能性は低い。