米大統領選挙でドナルド・トランプ氏の復権が決まった。トランプ2期政権で、米国や日本の経済、株・為替市場はどう動くのか。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏とみずほ証券チーフエコノミストの小林俊介氏に緊急対談で予測してもらった。対談の前編では、トランプ氏の経済政策の実現可能性と経済への影響を検証する。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
トランプ氏の政策は
支持者である貧しい人を苦しくさせる
──トランプ氏が米大統領選挙で勝利した背景は。
河野龍太郎氏 まず、物価高で米国の家計が苦しんでいたことです。現在、インフレ率は2%台に低下していますが、多くの有権者にとって2021年以降、物価水準は切り上がったままです。
次に、ハリス陣営も含め民主党は人権のような問題は得意かもしれないが、経済政策はあまり得意ではなく、「トランプ氏の方が経済政策は得意」という有権者の思いが背景にあったと思います。
こうの・りゅうたろう/1987年横浜国立大学経済学部卒業、住友銀行、第一生命経済研究所などを経て、2000年11月よりBNPパリバ証券。現在、経済調査本部長チーフエコノミスト。 Photo by Yoshihisa Wada
これらの底流に、高い教育を受けたエスタブリッシュメントが推進したグローバリゼーションによって低中所得層が苦しんでいる、という通説が広く受け入れられていたことがあります。“トランプ党”に変質した共和党が、そうしたアンチエスタブリッシュメント層を取り込む一方で、ハリス氏はグローバリゼーションを推し進めたクリントン、オバマ、バイデンの系譜だとみられてしまいました。
共和党は中東政策においては、親イスラエルで一本化していますが、民主党は親イスラエルを表明しつつ、若年層を中心に親パレスチナを抱え、板挟み状態でした。
いわゆるトランピズムのポイントは三つあります。経済ナショナリズムと国境管理とアメリカファーストの外交政策です。
経済ナショナリズムに対応するのが関税強化、国境管理は移民規制。そして、以前の共和党と違う、大規模減税による拡張的な財政政策が経済政策の柱となります。
小林俊介氏 今回の結果はグローバルガバナンスとの決別、偽善への反撃といえると思います。
多くの人は米国の家計の所得水準を平均値で見ていましたが、中央値はそれより下でした。庶民の実感に近い中央値の水準で見れば所得はあまり上がっていません。
こばやし・しゅんすけ/2007年東京大学経済学部卒業。13年米コロンビア大学・英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。07年大和総研入社。20年8月より現職。Photo by Y.W.
なぜ上がっていないのか。それは不法移民が大量に流入したためです。CBO(米議会予算局)の公式推計によると、23年の1年間で240万人が流入しており、労働人口の1.1%に当たります。不法移民が職に就くことで、それまで日当150ドルで働いていた人が日当100ドルに落としても失職してしまう状況になりました。
不法移民を人道的理由で受け入れているために、自分たちの暮らしが苦しくなり、それを許容する民主党政権は偽善であるとの思いがあり、そこに対する反発が反ハリス氏につながったのでしょう。
ここで倒錯が起きています。それは、共和党とトランプ氏は、彼らを支持する貧しい人たちの必ずしも味方ではないとみられることです。
アメリカファーストの本質は、世界から税金を徴収し、米国内で減税をするということ。世界からの税金は関税です。関税は消費税同様国内の企業や家計が負担するわけですが、国外から見れば税金を取られているようにも見えます。
法人税減税、高所得者減税の帳尻合わせとして関税をかける。貧しい人たちが苦しくなるはずです。もうける人を優遇するという意味では今までの共和党と変わっていないでしょう。にもかかわらず、有権者の大宗を占める中間層以下の人たちの多くがトランプ氏に投票したのは、捨て身で現状の民主党の偽善を否定したいと考えたのかもしれません。
──トランプ氏の経済政策の公約の実現可能性と経済への影響をどうみますか。