「高級」だけが美食ではない。美食=人生をより豊かにする知的体験と教えてくれるのが書籍『美食の教養』だ。著者はイェール大を卒業後、南極から北朝鮮まで世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏。美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを網羅した一冊。「外食の見方が180度変わった!」「食べログだけでは知り得ぬ情報が満載」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。
「ミシュランガイド」の誕生ルーツ
レストランガイドとして世界で最も有名なのは、やはりミシュランガイドでしょう。
ミシュランガイドは、タイヤメーカーのミシュランが、フランス各地にある美味しいレストランを紹介し、そこに行くためにたくさん自動車を走らせてもらい、タイヤを使ってもらおうということで誕生した経緯があります。
東京版やカリフォルニア版、タイ版の授賞式に出席させてもらったことがありますが、タイヤメーカーとしてのモビリティというのは今もテーマになっていて、スピーチなどでも必ずこの話が入ってきます。
もともとはフランスだけでしたが、今や世界各国、国によっては地域ごとに展開されるようになっています。
昔のように本が売れる時代ではないので、新規にカバレッジするエリアについては、地方自治体がスポンサーとして資金を拠出して調査費用を賄っているようです。これが、自治体による食を通じた地方再興のひとつの有力な手段となっています。
ユーザー本位の選出基準
ミシュランガイドといえば、2020年度版より、一般から予約を受け付けない完全紹介制のお店が、非掲載になりました。
結果的に、三つ星を獲得していた有名な鮨店「すきやばし次郎」と「鮨さいとう」が対象外になったのです。ミシュランのスタンスを想像するに、ミシュランガイドを見たユーザーが行けるお店が掲載されているガイド、にしたいのではないかと思います。予約が困難なことはあるとしても、取れる可能性がゼロのお店は載せない。
これは、東京のように完全紹介制のお店が多い都市においては、最高峰のお店が何軒も掲載されない、ということを意味します。
そもそも、東京は最初からミシュランガイドに掲載されていない名店が数多くあるので、今さらではありますが、「東京最高峰のお店が網羅されたガイド」ではなく、特別なコネクションがなくても行けるお店が載っている「使えるガイド」にさらに舵を切った、というように僕は感じています。
僕が考えるミシュランの特徴のひとつは、必ずしもコストパフォーマンスが重視されていない、ということです。
食べログなど食べ手が評価するレストランランキングと比較すると、ミシュランが星を付けているのにランキングでは評価が低いことがあります。
こういうお店は、大体コスパが良くない傾向が多いと思っています。実際、ミシュランガイドのインターナショナルディレクターであるグウェンダル・プレネックに直接聞いたことがありますが、コスパはsecondary、つまり最優先ではなく二次的な要素、だといっていました。
逆にいうと、若干割高でも予約が比較的取りやすい店が見つかる、ということにもなります。
(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。