【新証言】FBIが隠し続けてきた謎のスパイ「シンカワ」とは何者か?真珠湾攻撃で暗躍した男の正体写真はイメージです Photo:PIXTA

日本時間の1941年12月8日、空母を主力とする日本海軍機動部隊がハワイ真珠湾を航空攻撃。停泊していたアメリカ太平洋艦隊の戦艦8隻は戦闘能力を失い、2000人以上の将兵が戦死を遂げた。だが、この大被害は、適切な対処があれば防げたかも知れない。なにしろ日本海軍の協力者だった男が、真珠湾攻撃を防ぐべく、アメリカ海軍への協力を申し出ていたのだ。にもかかわらず、FBIは彼を監視し、彼の行動を妨害し、彼についてのファイルを隠匿した。彼のファイルがようやく公開されたのは、2017年のことだ。その男、「エージェント・シンカワ」の意外な正体に迫る。本稿は、ロナルド・ドラブキン著、辻元よしふみ訳『ラトランド、お前は誰だ? 日本を真珠湾攻撃に導いた男』(河出書房新社)の一部を抜粋・編集したものです。( )内の編集部注はダイヤモンドオンライン編集部によるものです。

日本が強大なアメリカを攻撃する
愚行はありえないという予断

 アメリカ海軍太平洋艦隊の司令長官、ハズバンド・キンメル海軍大将はこの日(編集部注/1941年12月6日)、彼としては珍しくクリスチャン・サイエンス・モニター紙のジョゼフ・ハーシュ記者によるインタビューを受けた。ハーシュはキンメルに対し、日本軍は合衆国を攻撃すると思いますか、と尋ねた。

「いやあ、君。彼らがそこまで愚か者だとは思えませんよ」

 それは、日本軍による真珠湾攻撃の前日のことだった。

 アメリカ合衆国は当時、日本の2倍の人口、膨大な天然資源、そして5倍の経済規模を持っていた。日本軍は攻撃できない、と言っているのではない。そうはしないだろう、ということだ。多くのアメリカ人と同様にキンメルも、日本がはるかに強力なアメリカを攻撃すれば、それは国家的自殺に等しい、と考えていた。

 その軽率な態度とは裏腹に、キンメルは、攻撃があるかもしれない、という情報を受け取ってはいた。アメリカ陸軍と海軍は、マジック(MAGIC)と呼ばれる極秘計画の下、日本大使館が東京に打電した外交電報を解読していた。

 最近、アメリカ海軍の当局は、戦争を警告するメモをキンメルに送付していた。11月27日、キンメルは「この〔日本の艦隊の〕派遣は、戦争の警告とみなされるべきである」という内容のメッセージを受け取った。

 12月3日には別のメモが届いた。日本政府は総領事館に対し、暗号機1台だけを残し、その他の暗号書と暗号機をすべて破棄するよう命じた、とのことだ。戦争が差し迫っていることを強く示唆するものである。

 攻撃当日〔12月7日、日本時間8日〕の午前6時30分、米駆逐艦ウォードは、真珠湾の外で日本の潜水艦〔特殊潜航艇「甲標的」〕を撃沈した、と報告した。1時間後、米陸軍のレーダー観測員が、画面上で大量の機影を確認した。それらはホノルルに向かって飛んでいたが、スコープに映ったのは米軍機だと、彼らは思い込んでいた。

真珠湾が奇襲されたのは誰の責任?
どうすれば日本人に復讐できる?

 まさにその時、オアフ島のすぐ北を、日本の攻撃隊の先頭を行く中島飛行機の雷撃機〔九七式艦上攻撃機〕が旋回していた。天蓋を後ろに滑らせて開けたのは、総隊長の淵田美津雄中佐である。

 淵田は萱場製作所(編集部注/軍需メーカー。現在のカヤバ)の信号拳銃を手にし、窓の外に発煙弾を1発、発射した。フレアが早朝の空を照らした。各搭乗員に対し、「予定通り」と伝える合図だった。天気は晴朗ながら、空には雲が点在していた。攻撃隊は高度を下げ、島の南側から目標に接近した。