「M-1グランプリ」「THE MANZAI」は漫才の歴史における分岐点でした――。M-1グランプリ2008優勝、「生粋の漫才オタク」を自認するNON STYLE石田明さんによる現代漫才論。今回は、M-1やTHE MANZAI、THE SECONDといった視聴者にもおなじみの番組がお笑いに与えた影響、そしてお笑いの「競技化」について考えます。(お笑い芸人 NONSTYLE 石田明)
「THE MANZAI」がM-1を変えた
M-1は2010年でいったん終了し、2015年に再開しました。
2010年までのM-1は、いうなれば、全出場者がグー・チョキ・パーで勝負する「じゃんけん大会」。どのコンビも、漫才の基本構造にのっとったネタで点数を競っていました。
9年連続で決勝に進出した漫才界のモンスター・笑い飯の漫才も、ボケとツッコミが入れ替わるという形をとっているだけで、「偶然の立ち話」「ボケとツッコミの掛け合い」という漫才の基本構造は守られています。2010年に決勝進出し、独特な間の取り方で驚かれたスリムクラブですら、見せ方が変わっているだけで、漫才の基本構造には忠実でした。
唯一、第2回のM-1では、テツandトモがギターを引っ提げて決勝の舞台に立ちましたが、審査員の(立川)談志師匠は「お前らはここに出てくる奴じゃないよ」と2人に厳しくも優しい言葉をかけていました。
ところが、5年のブランクを経て再開された2015年以降、かなり様相が変わってきます。M-1は、グー・チョキ・パーだけでなく、「ガー」とか「チェキ」とか「ペー」とか、今まで見たこともないような手法を見せるコンビが出てきて“超多様”な大会になりました。
いったいその間に何があったのか。そこで見過ごせないのが、2011~2014年に開催された「THE MANZAI」の影響です。
「THE MANZAI」は優勝者を決めるコンテストでありながらも、かつてのM-1のようなヒリヒリした緊張感はない、バラエティショーの側面が強い賞レースでした。これこそ漫才の伝統からの脱却と進化を引き起こした、象徴的な番組やと思います。
それは「THE MANZAI」が、「ウケやすさ」「笑いやすさ」に特化した大会だったからでしょう。
M-1は競技的な側面が強くて、お客さんも緊張した状態で見ています。素直に「面白いものを見て笑いたい」というよりは、「誰が一番面白いかが決まる瞬間を見届けよう」という意識が強いのかもしれません。特に2010年までのM-1は審査員の点数もかなり厳しくて、今映像で見返しても、胃が痛くなりそうなくらいピリピリしているのが伝わってきます。
そこが「THE MANZAI」は大きく違いました。
M-1でひどくスベって苦い思いをした漫才師はたくさんいますが、「THE MANZAI」でそんな思いをした漫才師は、たぶんいません。僕らも2012年と2013年に出場したときは、めちゃくちゃやりやすかった。M-1とはまったく空気が違うと肌で感じたし、実際、ウケました。