仕事でも勉強でも、トレーニングでもダイエットでも、最も重要なポイントは「それを続けられるか?」だ。ビジネスや医療でも、顧客に継続的にサービスを受けてもらえるか? 服薬や節制を続けられるか? は大きな課題となっている。そんな「継続と習慣化」の問題を専門とし、成長を続けるスタートアップがある。独自開発した習慣化プラットフォーム「Smart Habit」を展開する株式会社WizWeだ。同社は多くの企業・サービスの裏側で顧客の「継続と習慣化」をサポートし、サブスク全盛時代の黒子として無視できない存在になりつつある。
その代表である森谷幸平氏に、同社が蓄積してきた「継続と習慣化」にかんする知見の一部を紹介してもらう連載の後編として、「習慣化」における離脱と継続の12の因子を解説してもらう。

継続と習慣化Photo: Adobe Stock

 前回は習慣化研究所の知見のなかで、最も重要と思われる「ラポールの重要性」について解説しました。今回は、私たちが習慣化事業を続けてくるなかで明らかになってきた、12の離脱因子と継続因子を紹介します。

1.【離脱】会話がない|【継続】会話がある

 三日坊主の話題になると、「本人のやる気」や「モチベーション」に原因を求めることが多くなりますが、個人の中にやる気は存在しません。人間は社会的動物です。行動の起点となる心の動きは、「発話」の中に生まれます。

 私たちの習慣化事業のきっかけとなった語学eラーニングでの学びをご紹介しましょう。エリートと呼ばれる社員が学習を続けてくれない苦しみのなか、試みとして、一人ひとりの受講者が発話する時間を設けるようにしました。文句でもなんでもいいので、小集団の中で、目標について発話してもらうのです。すると、たったそれだけで、初期の行動は驚くほどハイアクティブになったのです。何もなしだと20%の社員しか行動しなかったのに対し、80%以上の社員が順調に学習をスタートするようになったのです。

 なお、会話はリアルな声であればベストですが、文字ベース(チャットなど)でも効果があります。

2.【離脱】孤独 |【継続】仲間

 1.とも繋がりますが、やる気のありなしよりも決定的に重要なのは、「孤独」を排除することです。孤独状態で行動を続けることは極めて困難であり、我々の統計上も、放っておいても自分一人で続けられる人の出現率は20%です。自分の行動を承認してくれる仲間(あるいは、仲間に相当する人)が居ること。あるいは、仲間と共に一緒にやること。これだけで大きく行動継続率が変わります。

 ヘルスケアの観点で言うと、仕事引退後に何かしらのコミュニティ(趣味や地域など含む)に所属しているかどうかだけで、何も所属していない場合と比較して、将来の要介護率が2~3倍低くなるという研究も出ています。

3.【離脱】放置 |【継続】支えるネットワークあり

 上述の1.2.と近い力学構造となりますが、こちらは周辺環境の整えという視点となります。

「ちょっとやれば、すごく効果がある、本当に素晴らしい商品やサービス」であっても、単に渡しただけでは、続きません。行動が続くための支え、周辺ネットワークを整える必要があります。

 具体的には、

・店舗で最初にやりとりをするスタッフによる支え
・直接会話できなくても、メールやメッセンジャーツールなどで、本部がケアしていく支え
・学校や会社であれば、先生や人事部の社員
・自治体であれば「通いの場」といった自然な会話醸成の場の準備や、そこで会話が生まれる構図

 などです。概ね、一人に対して2~3名の自然な支えが整えられると、離脱可能性が減少します。

4.【離脱】面倒くさい・初期設定が重い |【継続】シンプル・ワンタッチ

 前回の記事で、継続と習慣形成の成否はスタートの直後でほぼ決まってしまうとお伝えしました。この点で極めて重要なのが、「はじめやすさ」、あるいは「スタート時の軽さ」です。使ってもらえれば最高に成果が上がる教育プログラムや健康アプリであっても、「スタートが面倒」というだけで、「そもそも使われない」「気がついたら1ヵ月経過しており、既に興味関心がなくなっている」という状況になります。

 シンプルか、ワンタッチ(直感的)かは非常に重要であり、継続の決定因子になり得るのです。

 では、自社のサービスのスタートがどうしても面倒になるものだったり、初期設定が重たかったりする場合はどうしたらよいでしょうか。

 その際に必要なのは、「丁寧なサポート」です。たとえば、誰かが寄り添い、一緒に設定する、あるいは、設定を全て代行してしまい、あわよくば一緒に居る間に、初期行動が順調になるところまでやってしまう。初日にアクティブにさえなれば、それ以降も続いていく可能性が飛躍的に高まります。具体的には、3日目、7日目の段階で「順調な行動量」に達した場合、3ヵ月後の定着可能性は、70%~80%になるというデータが出ています。

5.【離脱】いつやってもいいという感覚 |【継続】適度な緊張感・自分にとっての必須度の腹おち感

 習慣化事業に本格的に入る前、私は教育事業(eラーニング)をメインにしており、モチベーション(やる気)こそが重要な継続の因子であると考えていました。しかし、習慣化の研究所を設立し、実際に行動継続に関する事業を行ってデータを取るなかで明確になってきたのは、「本人の『やる気』は、継続の重要因子ではない」ということです。より正確には、「やる気がある、やる気がない」という話でなく、「今やらなくても、喫緊の死活問題になっていなので、やらない」というのが、多くの人の内面の真実なのです。

 習慣化研究所のリサーチによると、「自分にとっての必要性の薄さ、逼迫感の薄さ」が離脱因子であり、逆に、「今やる必要がある、今変わる必要がある」という緊張感、あるいは、逼迫感が継続を実現する因子となっていました。緊張案・逼迫感が大きすぎると、無理が生じてきますので、大切なことは、「適度」であることです。適度かどうかは、その行動が、日常生活に染み込んできても無理がないことです。「今までよりも、ちょっとがんばっている」あたりが「適度な緊張感、腹落ち感」と言えます。

6.【離脱】明日やろう |【継続】今ちょっとだけやろう

 特にOn-boarding(導入期)の初期定着で、ありがちな離脱因子が「明日やろう」という気持ちです。誰でも面倒になったり、ちょっと気が乗らないから、嫌になってしまったりします。ここで大切なことは、今「ちょっとだけ」やること。

 習慣化研究所の保有データによると、「初期の行動継続が肝」です。スタートから3週間で、日常生活に行動は組み込まれてきます。ここでのオススメは、無理にでも内容を分割することです。アプリであれば、「ログインだけやろう」が重要です。ログインすれば、1分やります。1分やれば、10分やってみようと思います。行動し始めて見ると、実はたいして苦痛ではないのです。

 不思議なことに、行動することで、心理状態が変わってきます。「3日連続で行動できている」となると、次は、「1週連続で、行動できている」となり、行動している事実そのものについて、自然に、自分が自分自身を自己承認するようになります。

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7.【離脱】まとまった時間が必要 |【継続】一瞬だけでいい

 6.とも関わりますが、習慣形成とは、日常生活の中に、特定の時間の使い方が組み込まれていくことです。

 私たちが習慣化事業を行うなかで、毎日60分までの時間の使い方の変更であれば、比較的ライトなサポートでもなんとかなるということが分かってきました。

 一方で、60分を超えると重たさが増してきます。120分を超える時間の使い方の変容は、日常生活に新たな習慣が組み込まれるというよりは、「大幅なライフスタイルの変更が発生している状況」「生活そのものが一変している状況」となります。この場合だと、習慣形成の継続モデルというよりは、例えば、3ヵ月、6ヵ月という時限設定して、その間に「筋肉を増強する」「やせる」「特定の試験のスコアを上げる」などの目標を達成し、その後は辞めること目指す「卒業モデル」になります。

 したがって、もし60分を超える時間の変容が必要なら、日々の生活の中で、捻出が可能な時間を1週間のリズムの中で見出し、そのために、何か辞めることを決める。あるいは30分ほどの時間変容であれば、「複数の一瞬の時間(=スキマ時間)」を組み合わせる。そうした工夫が必要になります。

8.【離脱】大幅な時間の変容が必要(無理がある、遊びがない)|【継続】ちょっと変えればよい(無理がない、調整弁もある)

 7.に似ていますが、その特定の行動を組み込むために、玉突き的に大幅な時間の使い方の変容を必要とする場合は、離脱してしまいます。これは、時間の長さに関わらないことがポイントで、わずか「5分間」であっても難しいことがあります。

 具体的には、広告代理店や、大手ゼネコンの責任者、システム系コンサルティングファームの責任者クラスのような方の場合、重大な納期を抱え、その日までに全力で仕上げる必要がある状態にあることがほとんどです。そうしたコンディションでは、1日30分であっても、新たな時間の組み込みは困難で、習慣化や継続は難しくなります。

 ではどうしたらよいか。巨大な納期があるということは、繁閑があるということになりますので、「閑」の時期の日常に組み込んで行くしかありません。

 1日24時間という時間は、何らかの行動で埋め尽くされており、日常生活として、生活スタイルが定着しています。その中で新たな行動を定着させていくには、まずは「ちょっと変えればよい」範囲に調整をしていく。「今」が時期でないなら「ちょっと変えれば大丈夫」な時期にスタートする、といった無理のない設計が重要になります。

9.【離脱】ログがない |【継続】ログがある

 行動したかどうかの「ログ」は非常に重要な因子となります。そもそもログがない場合、行動したかどうかの記録を見ることができません。On-boarding期(導入期)に、「すぐやる」「ちょっとだけでもやる」ことに成功したとしても、開始した事実を数字で確認ができないと、「今の自分」を客観的に見ることができなくなります。また、初期定着すると、だんだんと成果を求めるようになっていくことも「ログ」が重要になる理由の一つです。

 今では、ITツールの浸透で簡易にログが取れることが多くなっていますが、その前の時代でも、たとえばノートに毎日やったかどうかを記録していく、という行為そのものが継続に寄与していました。

 また、ログがあることで、客観的な振り返りが可能となり、自分以外の支援者からのサポートが受けやすくなります。また、継続したという事実(行動の積み上げ)をログで見ることで、一定期間続けている自分自身を承認する気持ちが自然発生的に湧いてきます。

10.【離脱】振り返りしない |【継続】振り返りできる

 定期的な振り返りが無い場合も離脱に繋がります。初期定着の時期には、振り返りをしなくても、まず行動定着できているかどうかに関心が向くので、振り返りなしでも問題はないように見えるのですが、1ヵ月経過した頃から人は効果が気になり始めます。

 しかし、1ヵ月以内に成果が出る即効性あるサービスや商品は稀有であり、むしろすぐに成果が出た場合には、何らかの無理が生じさせている可能性もあります。離脱せず、無理なく続け、得たい成果を得ていくために、「本当に今やっていることが、得たい成果につながっていくのか」「負荷をかけすぎることなく、続けられているか」などの定期的な振り返りが効果的です。

 振り返りがないと不安が大きくなり、継続が難しくなります。定期的に振り返ることで、将来の期待値と現在地との差分が明らかになり、そこが埋まるまでの時間を認識することで、行動と意識のズレが補正され続けていくのです。

11.【離脱】一人だけで振り返り |【継続】誰かと振り返り

 上記のように振り返りは継続に大変効果的ですが、自分ひとりで定期的に振り返りを続けていくことは、とても困難です。心を落ち着けて、椅子に座って、この1週間、1ヵ月間を振り返る。言うは易し実行は難し。これができるようなら最初から三日坊主になりません。

 最初から自分一人でやろうとせずに、自分以外の誰かと振り返る。ベストは1週に1回の振り返りですが、これが重たい場合は、1ヵ月に1回でも効果的です。これだけで「話す」「聞く」という行動サイクルの起点ができます。大変不思議なことに、人間は「話す」と行動する気が起きてきます。誰かと振り返る予定が入っていると、不思議なことに、その振り返りは実行されていくのです。

12.【離脱】多数のKPI |【継続】シンプルなKPI(1つがベスト)

 スマホやアプリでさまざまなログが取れるようになった結果、追いかける数字が多くなり過ぎる……習慣化事業を10年以上行うなかで、幾度となく遭遇してきた状況です。

 今までやっていなかったことが続くようになるために必要なことは、「1つの行動」です。たった1つのシンプルで分かりやすい行動目標が重要で、数が増えれば増えるほど、行動変容の成果は薄れていきます。

 たとえば、フィットネスクラブだと、来館数こそが会員の継続のコアです。初月に平均週2回が達成されれば、離脱の谷は越えられます。健康食品であっても、美容関連商品であっても同様です。基本的には、1日2回服用することだけをKPIにする。KPIが1つであれば、毎日の生活で意識しやすく脳の中に浸透しやすくなります。

 なお、KPIが3つであっても、サポーターのフォローがあれば継続していけますし、5つほどの組み合わせであれば、環境を整えれば「続く」ようにしていけるようです。

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 いかがでしたでしょうか。2回の記事を通じて、「継続」について解説してきました。

「継続」とは「1日24時間という自分の時間を、ある特定のことに使い続けること」。もし、未来の「ありたい自分」がある場合、今の時間の使い方によって、その未来に近づいていくことができます。そのために必要なことは、実現が難しい目標を設定したりすることではなく、「やる気」「根気」など、個人に求めることでもありません。

 習慣化についての適切な知識を提供し、またサポートをすることで、「継続」とそれに伴う「自己承認」、そして周囲への「ありがとう」という感謝の気持ちが増え続ける――私たちはそんな未来を創っていきたいと考えています。