ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊、『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。
脳に習慣を刻むまで繰り返す
あなたはいつ眠りに落ちる? これは、何時にベッドに入るかという意味や、何時に眠りたいかという意味ではない。睡眠に入る正確なタイミングはいつか、という意味だ。子どものころに確かめようとした人もいるだろう。ベッドに入ってうとうとし始めたときに、「自分はいま寝ているのか?」と自問した経験があるのではないか? もちろん、自問したとたんに目が覚めたはずだ。いつ眠りに落ちるかというと、それを知ることはできない。ベッドに入って眠くなったら、いつの間にか朝日が輝き、起きる時間になっている。
習慣という人間に固有の魔法もそれと同じだ。家族揃っての夕食を毎週行うようになり、それを続けていくと、いつの間にか「自分」で行わなくなる。代わって「第二の自己」が行うようになるのだ。そうして気づけば10年がたち、長男が家族の夕食に婚約者を連れてきて、この家では家族揃って夕食をとるのが昔からの伝統だと説明している。そうなればどんなにいいか!
魔法は音もなく始まるので、始まったと気づくことはない。とにかく、魔法が発動すると信じることが大切だ。魔法が発動する基本的な道筋は、「報酬を得られる行動を繰り返せば、脳内での情報の保存の仕方が再構築される」というものだ。よって、それまではある程度努力を続けることになる。神経系と記憶システムに習慣が刻み込まれるまでは、たとえつらくても、新しい行動を意識して何度も繰り返さなければならない。そうすると、どこかの時点でその行動が第二の天性となり、自動運転に任せられるようになる。
何回繰り返せばいいのか
とはいうものの、自動的になるまでに何回繰り返す必要があるのか?
何かを習慣にするには21日間かかる、と聞いたことがあるかもしれない。ということは、家族揃っての夕食を3週間続ければ、互いに話すようになるのか? 残念ながら、これは幻想だ。21という数字は、自己啓発の大家として知られるマクスウェル・マルツが1960年に発表してベストセラーとなった、『自分を動かす』に記されていた推測に端を発すると思われる。マルツの推測は、美容整形などの自己変化に慣れるのにかかる時間を考慮したもので、願望の意味合いが強く真実味はほとんどない。
真実を知るには調査のほうがいい。私のラボで博士研究員を務めるピッパ・ラリーは、自動的に行っていると「実感する」まで何回繰り返す必要があるかを確かめた。実験にあたり、彼女はロンドンの大学生96名に40ドルずつ支払い、3ヵ月にわたって彼らの協力をとりつけた。まずは彼らに、いまはやっていないが定期的に行いたいと思っている健康的な行動をあげてもらい、その行動に結びつく何かを各自で選んで日常生活に取り入れさせた。
たとえば、昼食時に毎日フルーツをひとつ食べる、夕食の前に15分走る、昼食時に必ずペットボトル1本の水を飲む、という具合だ。そして一日の終わりになると、実験に参加した学生たちは、実験用のウェブサイトにログインし、計画どおりに実践したかどうかを報告した。それには、その行動を自動的にとったと感じた度合いも含まれていた。その行動を「自動的に」「考えることなく」「自分でも気づかないうちに始めていた」度合いを数字で表してもらったのだ。
実験を始めた当初の数字は低く、0から42の尺度のだいたい「3」で表された。新しい行動を学習しているところなので、自動的に行う感覚はなかった。想像がつくと思うが、同じ行動を繰り返すうちに、自動で行う感覚は強くなっていった。強まった割合は最初の数週間がもっとも高く、3回目でその感覚が1増えたとすれば、40回目はその半分程度しかない。行動を始めたばかりというもっともつらい時期に、習慣の記憶はいちばん学習しているのだ。
余談だが、習慣が形成される前に挫折した学生が何人もいたのは意外だった。この事実から、簡単にできることを毎日行うという単純な行動ですら、繰り返し行うのは本当に大変だとわかる。
96人中14人が実験から完全に脱落した。残りの82人についても、平均して期間中の半分しかサイトにログインしなかった。新しい行動を続ける場合、推進する力が内発的な動機、具体的には、「その行動をとりたい」「それが自分のためになると知っている」「実験に参加すれば協力費がもらえる」といった動機だけでは弱いのだ。
実験に参加した学生たちは、新しい行動の継続を推進する外的な力を借りなかった。たとえば、夕方に走ると決めたなら、イヌの散歩を兼ねたりそのついでに郵便物を取りに行ったりする、果物を多く食べると決めたなら、果物が必ず置いてあるカフェテリアに行くようにすれば、それらが行動を推進する力となる。