「勝ち負けに関係なく、競争の果てに得られるものがあります」
そう語るのは、著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』がベストセラーになるなど、メディアにも多数出演する金間大介さんだ。金沢大学の教授であり、モチベーション研究を専門とし、その知見を活かして企業支援も行う。
その金間さん待望の新作『ライバルはいるか?』は、「競争」をテーマにしたビジネス書だ。今の時代、「競争なんて必要ない」「みんなで仲良くしないといけない」と考える人は多い。会社や学校でも、競争させられる機会は減った。その一方で、「誰かと競うことには本当に負の側面しかないのか?」と疑問を抱いた金間さんは、社会人1200人に調査を行い、世界中の論文や研究を調べた。そこから見えてきた「競争」の意外なメリット・デメリットをまとめたのが同書だ。この記事では、本書より一部を抜粋・編集してお届けする。

勝負から逃げている人の心に刺さる。スーパー技術者たちが競争の果てに口にした「意外な言葉」とは?Photo: Adobe Stock

スーパー技術者たちが戦う「魔改造の夜」

 皆さんはNHKの「魔改造の夜」という番組を観たことがあるだろうか。

 原則として月一回、木曜日の夜に放送されており、僕はとても好きなのでこっそり観ている(といっても人気番組なのだけど)。

 仰々しい番組タイトルとは裏腹に、内容はとっても身近だ。NHKのHPでは「超一流のエンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競う技術開発エンタメ番組」と紹介されている。

 僕らが普段よく使っている家電や日用品を、企業や大学に所属する技術者たちが、持ち前の技術力とアイデアを駆使して徹底的に改造するというものだ。毎回、一定のルールと制約が課される中で、3つのチームがタイムなどで勝敗を競う。

笑えるのは「最初」だけ

 この番組の何が面白いかというと、改造した日用品を使って技術者同士がガチバトルするところだ。

 たとえば、『洗濯物干し25mロープ走』(初回放送日:2023年8月31日)の回は秀逸だった。「これまで人工衛星の開発などを手掛けてきました」みたいなスーパーエンジニアたちが、夜な夜な、怪しい倉庫で洗濯物干しを改造しまくるのだから笑える。

 が、本当に笑えるのは最初だけ。

 技術者たちの、そのガチな姿勢に引き込まれていく。

 チームメンバーは2人や3人ではない。どのチームも優に10人を超えている。結果、洗濯物干しは25mの距離を、わずか数秒でかっ飛ぶことになる。

 すご過ぎる。もう意味がわからない。

 番組前半で「この人たち(頭のネジ)大丈夫!?」と笑っていた自分が恥ずかしい。

激しい競争の果てに辿り着く場所がある

 彼らは企業名を背負って出場している(といっても一応NHKなので、匿名化されている。でも誰にでもわかる表現になっていて、それがまた笑える)。彼らは所属企業のプライドや、取引先からの信頼を背負い、顔と実名を晒して勝負に挑んでいるのだ。

 だがあらためて言うが、これは3チームがタイムという絶対的な基準で競う競争だ。

 つまり必然的に2チームが負けることになる。

 場合によっては、技術的なトラブルに見舞われて完走すらできないチームもある。

 何という残酷さ。

 さぞ負けたチームは後悔と羞恥心に苛まれることだろう。

 と、思う読者もいるかもしれないが、少なくとも番組を観ている側には、そんな負の感情は1ミリも湧かない。

 最後、負けたチームは悔しくて泣く。勝ったチームも感極まって泣く。解説役の伊集院光さんも泣く。とにかくみんな泣く(僕も泣く)。

 そこには明らかに「勝ち負け」を超えた「何か」が存在している。

 番組の主旨は競争で、各チームは「絶対に勝つ」ことに集中していたにもかかわらず、だ。

なぜ勝者も敗者も、同じ感情を抱くのか

 もちろん敗者には悔しさが残る。

 応援してくれたすべての人に対する申し訳なさは計り知れない。

 だから番組終盤のインタビューで、敗者はこんなコメントを残す。

「とても悔しい。皆に支えられた戦いでした。彼らがいなければここまでやれなかった」

「負けてしまいましたが、とても多くのことを学びました。この経験を糧に、これからさらにいいモノを作っていこうと思う」

 他方、勝者はインタビューに対し、こんなコメントを残す。

「うまくいかないことも多かった。支えてくれた仲間やライバルに感謝したい」

「ここで学んだことは多い。これからのモノづくりに活かしたい。これからも恥ずかしくない仕事をしていきたい」

 これらのコメントは、いずれも僕の記憶に残っている限りのものだ。だから、きっと金間フィルターによるバイアスがかかっている。

 それでもなお、両者とも同じことを言っているような気がしてならない。

「勝ち負け」を超えた「何か」の全貌を明らかにすることはとても難しい。

 でも、そのうちの1つに「学び」や「成長」があることは間違いないと、技術者たちの言葉は感じさせてくれる。

(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)