今は「みんな仲良く」が正義とされる時代だ。会社や学校から「競争」が排除され、業績や成績を人と競い合うことがなくなった。一見すると居心地の良い環境だが、競争を通じた「学び」や「成長」の機会を失ったともいえる。かつて「ホワイト企業」と呼ばれた職場が若者から「ゆるブラック」と揶揄されるように、生ぬるい環境に危機感を抱いている人も少なくない。
そんな状況を打破するヒントが、「ライバル」の存在にある。そう話すのは、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さん待望の新作『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に調査を行い、「ライバル」が人生にもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「ライバルの有無と年収の関係」について紹介する。
アメリカでの「とある調査」
欧米における職場でのライバル関係の調査も見てみよう。幸い、直近と言ってもいい年次に、本書と類似した調査研究を実施した機関がある。
Resume Lab(https://resumelab.com/)という履歴書作成サービスを提供する企業が2020年に、アメリカ国内で正規雇用あるいは臨時雇用として勤める1022人を対象として、職場内の競争関係に関するサーベイを行った結果だ。
ライバルの有無で「年収」は変わるのか?
本調査ではいくつかの結果が報告されているが、最も気になる「ライバルと年収の関係」を紹介しよう。いかにもアメリカらしい調査項目を設定してくれたものだ。
同調査では1022人のサンプル集団を、「ライバルなし」「ポジティブなライバル関係あり」「ネガティブなライバル関係あり」の3つのグループに区分した上で、それぞれのグループの年収(Annual income)を算出し、公開している。
結果は、次の通りだ。
「ライバルなし」(4万4516$)
「ポジティブなライバル関係あり」(5万7324$)
「ネガティブなライバル関係あり」(5万2911$)
ポジティブなライバル派の圧勝となった。「ライバルなし」と比べて、28%も年収が高い。
2024年10月末現在の為替レートで換算すると、その差は約196万円にも達する。
ライバルがいるから挑戦できる
加えて興味深いのが、ネガティブなライバル関係であっても、ライバルなしより約19%も年収が高いことだ。
これを鑑みると、関係性の良し悪しにかかわらず、こと年収から見た場合、ライバルはいないよりいた方がマシ、という結論になる。
このような結果となる根拠として、「ライバルあり」グループの半数以上の人が、ライバルと競争するためにより多くのプロジェクトを引き受けたと回答している。
この点は僕の研究結果(ライバルを持つ人ほど新たな挑戦をする)とも整合的で、日米の共通点と言える。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)