三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第19回は「東大生の塾講師・家庭教師バイトの実態」について考える。
東大生のバイト事情「家庭教師の給料は、かなり高い」
龍山高校東大専科の授業の秘訣、その1つは「教え合う」ことだった。
クラスメイトに教え合うことでアウトプット力を高め、同時に自分が理解していないところを見つけ出すのだ、と担任の水野直美は説明する。早速、早瀬菜緒はクラスメイトの天野晃一郎に英語の「関係詞」についての授業をスタートした。
当たり前だが、「教える」ことは「教わる」ことよりもはるかに難しい。今回は東大生の塾講師・家庭教師バイトの実態について書いていこう。
2021年度の東京大学学生生活実態調査(東京大学学生委員会)によると、アルバイトを経験したことがある東大生の中で、41.2%が塾講師、26.2%が家庭教師のバイトをしたことがある(複数回答可)そうだ。
下世話な話にはなるが、周りの同級生から話を聞く限り東大生の教育系のバイトの給料はかなり高い。
最低賃金の2倍、3倍はザラにあるし、中には時給7000円、8000円なんてものもある。もっとも勤務時間とは別に、自分で予習や授業構想を練る時間を作らなくてはいけないが。
東大生にしてみれば勉強の指導なんて簡単に金を稼げて楽だろう、というような声を聞くこともある。しかし、実際はそんなことはない。
多くの意見として挙がったのが、「無意識で解いている部分を説明できない」「自分の思考を生徒が理解できるように言語化するのが難しい」というものだ。論理的な説明ができない、というわけではない。実際、授業中や日常で耳にする彼ら彼女らの発言は極めて論理的だ。
問題なのはむしろ、論理的な説明をしないほうがいい場合もある、ということだ。
論理的な説明には、しばしば定義の共通理解が前提とされる。いかに噛み砕いて話すことができるかは、問題を速く正確に解く能力とは別物である。
ある薬の効能を知りたいのに、いきなり化学式の話をされてもよく分からないのと同じだ。
東大生が指導することで、ミスマッチを招く可能性も…
「東大生というだけで過度な期待を寄せられるが、そもそも親が希望する進学先のレベルや学習の進度と生徒の学力レベルが合っていない」という家庭教師をしている友達の意見は切実だ。
教える側としては当然そのことを親に伝えるのだが、なかなか強く出ることは難しい。
かといって「親に『お任せします』と言われても、指導の専門家でもない身で一からカリキュラムを組み立てるのは困難」という声もある。
家庭教師は教える側の采配が自由すぎるあまり、経験のない人がやるとかえって遠回りの指導を行ってしまうこともある。
東大生は、日本最難関レベルの入試を突破してきた人たちだ。その意味で、問題を「解く」ことに関してはプロフェッショナルだろう。
だけれども、「解く」専門家は決して「教える」専門家ではない。もちろん、他人に教えるのがとても上手な友達はたくさんいるし、実際に勤務先の塾で確かな実績を作っている友達もいる。
しかし一方では、「とりあえず塾講師をはじめてみたが、明らかに自分に向いていないと気付いたから近いうちにやめる」と明言している知り合いも数人いる。
家庭教師の場合、東大生だからといって安易に指導を頼むことは、かえってミスマッチを招く可能性すらある。
そしてまた、東大生側も「自分は入試を突破したのだから教えるのは向いているだろう」との思い込みは禁物だ。