日本銀行Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages

デフレ脱却のスローガン
都合がいい「賃金と物価の好循環」

 日本銀行は現在、2%の物価安定目標を持続的・安定的に達成するには至っていないと判断している。しかし消費者物価は2年以上もの間、2%の物価目標を達成する上昇を続け、10年続けた異次元金融緩和も終了させた。さすがの日銀もデフレ脱却というスローガンを使いづらくなってきた。

 デフレ脱却が大事であるという主張においては、物価が上がれば経済活動が活発になり、賃金も当然上がっているという世界が想定されていた。しかし現実には物価が2%上がっても日本経済は元気にならず、インフレによる実質所得の減少が懸念される状況になった。

 ただ、タイミングは遅れるものの、物価上昇に合わせて賃上げを行う企業は出てくる。労働組合と会社との間の賃金交渉では、前年の賃金上昇率に連動して賃金が上がるのが一般的だったからだ。

 確かに、物価が上昇したことで賃金が上がるようになったのだから、デフレ脱却というスローガンも誤りではなかったと主張できる。これはデフレ脱却を標榜していた政府・日銀にとって救いの神だ。

 日銀は物価安定目標の実現を目指すという政策目標の前に「賃金の上昇を伴う形で」という文言をつけた。こうして、いかにも国民受けしそうな「賃金と物価の好循環」という新たなスローガンが生まれてくる。