三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第148回は「日本型資本主義の究極形」である総合商社について論じる。
あまりにユニークな総合商社の業態
タイムスリップした主人公・財前孝史は、藤田家創業者の金七と投資部初代主将であり自身の曽祖父の龍五郎と食事をともにする。金七は注目する実業家として、戦前に隆盛を極めた総合商社・鈴木商店の大番頭・金子直吉の名を挙げる。
「総合商社」を英語で何と言うか、ご存じだろうか。答えは「Sogo shosha」。あまりにユニークすぎる形態なので日本語がそのまま英語になっている。
Trading companyと訳す場合もあるが、何かがこぼれ落ちている感は否めない。同じような例に「カイゼン」や「系列」がある。いずれも日本語がそのまま通じる。オタクや和牛も同様だ。
資源ビジネスにはトレーディングから貿易、鉱山・油田の権益まで手掛けるグレンコアのような巨人がいるし、投資銀行やプライベートエクイティファンドはグローバルなネットワークを生かして企業やプロジェクトに参画するスタイルが商社に通じる。
しかし、総合商社ほど守備範囲が広く、多様な収益源を持つ存在は海外では見当たらない。やはりSogo shoshaと呼ぶしかないユニークな企業群だ。
私は商社を「日本型資本主義の究極形」と考えている。貿易、金融、実業、ITまで組み合わせられるバランス感覚と視野の広さは、懐の深い日本経済の真骨頂であり、一方で儲かるならどこでも、どこまでも首を突っ込むアグレッシブさは日本企業離れしている。
東大・京大は商社よりコンサル?だけど…
その淵源は、戦前から戦後の復興期、高度成長期からバブル期、その後の停滞の中でも常にビジネスモデルを変化させてグローバルな市場経済の中でサバイバルの道を見つけてきた歴史的経緯にある。商社の歩みをたどれば、日本経済の強みと課題が浮き彫りになる。
明治維新による開国後、軽工業から重工業へ日本が発展する過程で、三菱・三井・住友などの財閥や作中に登場する鈴木商店などの商社は原材料の調達・輸入役となって産業育成の一翼を担った。
敗戦と戦後の復興期を経て、高度成長期には海外進出する日本企業のパートナーや水先案内人の役割を担った。
「口銭商売」(※)のうまみがなくなる時代になると、資源権益やインフラなどのプロジェクト参画、金融や物流にまで領域を広げ、21世紀に入ってからはサステナブル経済やスタートアップ、ITなど新しい分野を開拓してきた。
※口銭(こうせん)…売買の仲介手数料のこと
今に続く日本株の上昇相場の起爆剤のひとつは2020年8月に投資家ウォーレン・バフェット氏が5大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)への投資を公表したことだった。商社株はその後の4年余りで軒並み数倍に跳ね上がっている。
ビジネスが手広すぎて何をやっているのか把握が難しいのが投資対象としての商社の難点だった。バフェット氏の「お墨付き」はコングロマリット・ディスカウントの払拭に一役買った。
東大や京大など上位大学の学生の間では、就職先として商社よりコンサルの方が人気は高いようだ。長期の海外駐在やマッチョな文化など商社の根強いイメージが影響しているとみられるが、私はどちらかと言えば商社を推したい。机上の計算ではなく、若いうちに「現場」を踏める経験には代えがたい価値がある。