本コラムが公開される時期は大型連休明けであり、3月決算会社の決算短信も出そろってきた頃だ。これらの企業にとって今は、第1四半期(4月~6月)の折り返し地点になる。第1四半期ももう中盤戦だ。
アベノミクスによって円安株高が定着し、企業業績が上向く中で、企業経営者の多くは「それでもコスト削減の手綱を緩めることのないように」と現場にハッパをかけていることだろう。
無駄なコストを削減するのは大切だ。しかし、無駄なものの中には稀(まれ)に、「創造の芽」になるものがある。また、現場に対して短兵急に、コスト削減の成果を求めようとすると、「粉飾決算の萌芽」になるリスクがある。今回は、その萌芽の一端を証明してご覧に入れよう。
あらかじめ誤解のないように申し上げておきたい。今回取り上げる上場企業に、「粉飾決算の萌芽」があるわけでは断じてない。株価が年初来高値を更新し続け、今後も業績好調が持続すると予測される企業であるからこそ、ピックアップしたものだ。
筆者は、具体的なデータに基づかない観念論を嫌う。「粉飾決算の萌芽」は、現場を顧みず、「机上の空論」を妄信する経営幹部たちの間で生まれることを警告したいだけの話である。
キヤノンに、タカダ式操業度分析を適用する
最初に、本連載でたびたび登場させているタカダ式操業度分析をキヤノンに適用したものを、次の〔図表 1〕に掲げる。2012年12月期における各四半期の実績を年間ベースに直して、緑色の点で分布させている。
〔図表 1〕を初めて見る人にとって、この図表は不思議な構造をしている。
最初に注目してほしいのは、縦軸にある基準固定費1兆1694億円だ。ここは、キヤノンの売上高がたとえゼロであっても、その発生が避けられない「固定費」である。タカダ式操業度分析では「基準固定費」と呼ぶことにしている。