半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。一個人にとっても、今や半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、「3分でわかる世界の半導体企業」をコンセプトに紹介していきます。今回は12月に上場を果たしたばかりのキオクシアについて解説します。

フラッシュメモリPhoto: Adobe Stock

財務面での問題を解決できるか?

キオクシア
売上高 9700億円(2023年)
従業員 1万5200名

 2017年、東芝が半導体メモリ事業を分社化して設立したのが東芝メモリで、2019年に商号変更して誕生したのが現在のキオクシアです。2023年の半導体売上高では世界第20位にランクされています。なお、キオクシアという言葉は、日本語の「記憶(kioku)」とギリシャ語の「価値」を意味するaxia(アクシア)の合成語です。

 キオクシアはNAND型フラッシュメモリを専門的に開発・生産する半導体メーカー(IDM)ですが、もともとNAND型フラッシュメモリは東芝の発明品とされ、元祖の立場にあります。なおフラッシュメモリにはNAND型の他に、NOR型と呼ばれるものもあります。

 キオクシアは「記憶で世界をおもしろくする」というスローガンを掲げています。キオクシアの代表的半導体製品はNAND型フラッシュメモリと、SSD(Solid State Drive ソリッドステートドライブ)ですが、NAND型フラッシュメモリの世界シェアは19%で第3位を占めています。ちなみに、1位はサムスン(韓)の34%、2位はSKハイニックスの19%、4位はウエスタンデジタル(WD)の13%になっています。

 三重県四日市市にある大規模工場は、ウエスタンデジタル傘下のサンディスクと共同投資で作られ、1992年に発足し、翌年から本格的に稼働しています。この工場ではキオクシアとサンディスクの両社のNAND型フラッシュメモリを生産しています。また岩手県のキオクシア北上工場は、2018年に起工し2020年から本格稼働を始めていますが、さらに2025度中には新棟が稼働を始め、生産能力の増強に寄与する予定です。

 財務面で問題を抱えているキオクシアは、ウエスタンデジタルとの統合の話が何度か出ていますが、キオクシアの大株主であるアメリカのベインキャピタル、さらに間接出資している韓国のSKハイニックス、さらに日本政府の思惑などが絡まり複雑な事情になっているようです。

 特にSKハイニックスは、先に述べた市場シェアからも窺えるように、キオクシアとウエスタンデジタルが統合すれば、自分たちはNANDフラッシュメモリ2位のポジションから陥落してしまう恐れや、ウエスタンデジタルの思惑が入ってくるなどの懸念からか、統合に同意せず2023年10月には決裂するに至っています。

菊地 正典(きくち・まさのり)
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。