半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。今や一個人にとっても、半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、【3分でわかる世界の半導体企業】として紹介していきます。最初に取り上げるのは、「半導体×AI」を象徴し「世界経済を牽引する」企業となったエヌビディアです。
インテルやAMD、アームとの争いに注目!
売上高 491億6100万ドル(2023年)
従業員 2万9600名
エヌビディアは1993年に、LSIロジック社を退社したジェンスン・フアン(Jensen Huang)らによって設立されたアメリカのファブレス企業です。
もともとは3次元グラフィックスを扱う半導体を提供することを目指していました。1999年に同社によって発明されたGPUはCPUとともに、コンピューティングにおける新たな土台を築いたといえるでしょう。
エヌビディアのGPUは、2000年代前半まではゲーム市場やクリエイティブ業務の用途に主に使われてきましたが、2001年にCUDAアーキテクチャを採用したTeslaシリーズにより、汎用GPU(GPGPU)として科学や各種研究分野に採用されるようになり、市場が一気に広がりました。
さらにアーム社(ARM)のプロセッサと融合させたTegraなどのSOCを開発することでデータセンター、ワークステーション、スパコンからパソコン、ロボット、ドローン、自動車など、幅広いアプリ分野で同社のGPUが採用され、同社の規模拡大や業績向上に貢献しました。
2022年に注目を集めた生成AIでは、高価なGPU(エヌビディアのシェアが8割)を湯水のごとく使用します。追い風を受けたエヌビディアは業績を急伸させ、2023年には世界半導体売上でインテルやサムスンを抜いてトップに躍り出るとともに、時価総額でもマイクロソフトに次いで世界第2位の巨大企業に成長しました。
躍進を続けるエヌビディアですが、「すべてが安泰」とは必ずしもいえないでしょう。2020年には、ソフトバンクからアーム社を4.2兆円で買収する予定でしたが、2022年には各国の独占禁止法当局により買収を断念しています。また、2024年9月の同社の株価急落は、2080億個のトランジスタを搭載したBlackwellアーキテクチャGPUの出荷計画の遅れが関係したとされています。決算そのものは好調でも、エヌビディアに対する市場の期待度が高すぎる分、反動も大きいと考えられます。
今後、生成AI用半導体分野でインテルやAMDとの争いは必至で、さらにオープンソースの代替えチップアーキテクチャへの関心が高まっていること、アームの設計をカスタマイズして利用する企業が増えてくることなども考えると、エヌビディアと業界の動きから目が離せません。
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。