半導体への関心が高まるなか、開発・製造の第一人者である菊地正典氏が技術者ならではの視点でまとめた『半導体産業のすべて』が話題だ。同書は、複雑な産業構造と関連企業を半導体の製造工程にそって網羅的に解説した決定版とも言えるものだ。
今回は同書より、日本の「半導体製造装置メーカー」について解説した部分を紹介する。(初出:2023年3月5日)
日本にも好調な「半導体業界」がある?
前回、「残念な日本の半導体メーカー」の姿を見てきましたが、じつは同じ半導体業界といっても、
・半導体の「製造装置業界」
・半導体の「材料業界」
の2つに目を転じると、まったく異なる状況が見えてきます。
我が国の装置業界と材料業界の世界市場における立ち位置は似通っていますので、ここでは装置業界について見ておくことにしましょう。
上流と下流の違い
次の図には2005年から2020年までの半導体製造装置メーカーの売上高ランキング(トップ10)の推移を示してあります。
この図で見ると、我が国の半導体製造装置メーカーは、2005年には5社、2009年と2020年には4社と、依然として健闘していることがわかります。またオランダのASMLとASMインターナショナルを除いては、日本とアメリカでトップ10をほぼ折半していて、顔ぶれも常連が多い状況になっています。
日本の半導体メーカーが凋落の一途をたどったのに対し、半導体業界のなかでも「装置メーカー」が健闘している理由は何でしょうか?
まず考えられるのは、「神は細部に宿る」という言葉です。これにはさまざまな意味が込められているのでしょうが、産業技術の下流に行けば行くほど、より経験的あるいは試行錯誤的なノウハウが必要となってくることです。このため、後発メーカーは先行するメーカーになかなか追いつき追い越せない、という現実が存在していると思われます。
したがって、半導体メーカーが製造装置を選ぶ場合、これまで使い慣れている既存メーカーの設備をやめて、わざわざ新規メーカーの製品に変更するという大きなリスクを冒すような選択はしない、と考えられます。
半導体業界、なかでも「半導体装置」の開発はまさに“how to make”の世界であって、作るべきものが基本的に決まっています。そうなると、この製造装置産業のしごとは、きめ細かくて丁寧なものづくりをする日本人や日本企業のマインドに合っているのかも知れません。
これから正念場を迎える製造装置業界
さらに半導体産業の新興国である韓国、台湾、中国などは、半導体ビジネスに参入するに際し、市場規模も大きく、より戦略的、系統的に攻めやすい上流のデバイス業界から始めたと思われます。
したがって彼らは、半導体産業の上流に食い込んだ昨今、「次は、装置業界と材料業界」をターゲットに据えているのは当然とも言え、いくつかの装置分野ではすでにその兆候が現れてきています。
半導体やディスプレイの二の舞となることなく、我が国の装置・材料メーカーには頑張って欲しいと願わざるを得ません。