半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。今や一個人にとっても、半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、【3分でわかる世界の半導体企業】として紹介していきます。今回は、2023年の巨額な赤字から復活を遂げたサムスン電子について解説します。

SamsungPhoto: Adobe Stock

巨大IDMでありながら、ファウンドリーとしての事業拡大も目指す

サムスン電子
売上高 443億7400万ドル(2023年)
従業員 11万3485名

 サムスン電子は、1969年に設立された韓国の最大財閥サムスングループの中核会社です。そして、世界最大の総合家電、電子部品、電子製品メーカーであるとともに、半導体の巨大IDMです。サムスンは、メモリ(DRAMとNANDフラッシュ)では世界ナンバーワン、2023年の半導体売上高ランキングでは第3位で、2022年まではアメリカのインテル社とトップ争いを演じて来ました。しかし、2023年にはアメリカのエヌビディア(NVIDIA)の躍進でトップ争いから陥落しています。

 また、2023年にはコロナ特需による在庫の積み増しの反動でメモリの在庫調整が進み、その影響をもろに受けたサムスンの業績が急落し、1.7兆円もの大幅な赤字と人員削減に見舞われました。しかし、2024年に入ると在庫調整がほぼ終わり、生成AI向けのハイエンドDRAMやデータセンター向け需要の増大で、第1四半期には黒字転換を果たし、営業利益は1兆2200億円と前年同期比15倍以上になっています。

 このような中で、サムスンの弱点を挙げれば、メモリ分野で急成長中のHBM(DRAMよりも大きなデータを一度に扱える高性能メモリ)でSKハイニックスの後塵を拝し、ファウンドリー事業でもTSMCに水をあけられていることでしょう。HBMに関しては、未だエヌビディアの基準を満たしていないと伝えられています。

 またアメリカ・テキサス州テイラーでの新工場の立ち上げも遅れていて、当初、2024年後半を生産開始としていましたが、26年に遅らせるとの情報もあります。

 最近のサムスンの明るいニュースとしては、台湾のメディアテックと協力して業界最高速の低パワーDRAM(LPDDR5X)の開発成功が伝えられています。

 サムスンは横浜市にパッケージに関する先端半導体研究開発拠点を400億円以上を投じて開設しますが、日本政府は200億円の補助を行なうとされています。

 このようにサムスンは巨大IDMでありながら、ファウンドリーとしての事業拡大も目指していて、この点インテルと戦略的に似通ったところがあります。逆に言えば、ファウンドリー事業の将来がどうなるかは、インテル同様、注目に値するところです。

菊地正典(きくち・まさのり)
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。